澱む息を吐きながら、殺し屋はさらなる澱みを探して明けたばかりの朝に唾を吐く。
紛いもののクリスタル、地球儀を突いては廻し、散る埃を吹き飛ばす。
オペラシティで撃ち殺した誰か、別に知りたいわけもなく、理由だけは聞いてみても良かったと、レモネードをなめていた。
雨ばかりが続いてる、肌寒いのも変わらずで、サイズの合わないカウボーイ・シャツを着る、そいつはあちらこちらにしみだらけ、渇いているのに鉄が臭った、それに怯える自分がいたことは不思議な気分だった。
弾かせるタイプライター、何気なく綴る駄文は誰に見せるわけでもない。
赤い首輪の黒い猫、膝の上にうずくまる。
あたたかさが伝わった、冷えずに流れる血があることを今更知った。
光が宿る目を閉じて、膝の上に黒は眠った。また出かけなきゃと思うけれど、温もりから離れられない、殺し屋はしばらく眠っていようと、地球儀をクズカゴに放り込む。
外れたクリスタルは開けたままの窓から飛んでった。8階から墜ちた地球、砕け散るのを見たのは夢か。
“どうでもいい”とタイプライターに打ち込んで、テーブルに突っ伏し眠っているふりをする。
ブラインドを閉め切った屋根裏部屋は一階がミニ・シアターだ、二階は飲み屋の名を借りた売春宿になっていて、三階には彼女らが寝泊まりしている。
シアターでは半世紀前のラブ・ストーリーが繰り返し流されている、誰もそれを観てなどいない、垂れ流されているだけで、子供たちがポップコーンを食べながら母の迎えを待っているだけ。楽しいふりをする声を想像していた、電話が鳴っていることに気付く。
夜がまた血のニオイをさせる、一晩ごとに不明の死者が出る街は、世界中にいくつくらいあるだろう。地図や地球儀からじゃそんなことは分からない。
ラツィオは新しいナイフと使い慣れたピストルをバッグに入れて、歩き慣れた夜の街へゆく。
<了>
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⇒“duine”
⇒赤のサディスト
⇒灰と吸い殻とダイヤモンド
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