
祈り火と過ぎる夏<1>
祈り火と過ぎる夏<2>
祈り火と過ぎる夏<3>
祈り火と過ぎる夏<4>
祈り火と過ぎる夏<5>
祈り火と過ぎる夏<6>
祭が中止になることを知ったミズキは東京へと帰り、当たり前のはずの日常へと埋没していった。
すでに秋の気配が色濃く漂う故郷と違い、まだ東京には夏の太陽が空にしがみつくように残っていた、それを不思議にも思わなかった。旅に慣れたのではなく、旅することが当然になると、見た景色の変化を受容するのに戸惑うことがなくなる。
私は新聞記者ではない、ミズキは自分に言い聞かせる。
私は祭に活気づく町の高揚を写真にし、記事にするのであって、それがいくら生まれた土地であっても、崩壊の危機にある村を追うのは自分のやるべきこととは違う、くすぶる何かを胸に抑えながら、忘れたふりで生きるべき日常にいる。
通り過ぎてゆく。
私はいつも通り過ぎてゆくのだ。深いため息と共に、見慣れたパソコンの画面を睨む。
何度も通り過ぎてしまうと麻痺してしまうような気がした、いかに激しい変化であれ、そのなかに身を投じてしまうとどこか他人のような気分にもなる。
ソウスケは自宅があったはずの周辺を片付けながら、そこに痕跡を探し求めた。ここに生きたものの痕跡だ、水に濡れて色をなくした写真たちや春になれば花をつける庭の梅の木、そして納屋に収納されていたはずの農機具。
なにひとつ残されていなかった。始めたばかりのゴルフクラブ数本が見つかったが、使い道も必要もない。
墓標代わりにそれを土に突き立ててみる。柔らかく緩んだ土はしばらくそれを立ててくれたが、やがて力を失い倒れていった。
くそっ。
誰ともなく吐き捨てる。あちらこちらで似た声が聞こえた。ひと気は少なくも、ここはやはり人が生きた場所なのだ。
祈り火の季節。
もうそれも中止が決まった。だけど、いまこそ必要な、そんな気がする。
ソウスケは思う。
この土地に暮らし続けるのはもう無理だろう、世代を超え、土がまた生き返るまではこの地に花は育てられない。薙ぎ倒されたミカンの木々、ビニールハウスに絶えた花々。
この地を愛し、留まり続けた者として、祈り火を燈そう、いま、それをするべきだと彼は思った。
photograph and story by Billy.