前回迄 初恋を一目ぼれで経験した私は相手に伝えるという発想よりも内にこもるダメ人間のスタートでもあった。

 

私は三人姉兄の末っ子だった。それでもクリスマスはケーキで祝い、クリスマスプレゼントはステレオプレイヤーだった。

白い本は、読まれることを意識していたので遅々として進まなかった。いつか、かすみさんに渡したい。出来るハズのないことを意識する夢想家だった。

初めて買ったレコードは忘れたがロックだった。

ヘッドフォンで聞きながら自分なりのラブレターに格闘していた。

ハガキ大に切った白い紙に何度も何度も繰り返し住所を書いていた。始まったばかりの5桁の郵便番号の中に入れる数字から自分の名前までミスなく書くことは結構難しかった。

彼女の住所氏名と私の住所氏名全てを毛筆で書いていたのだった。

裏には「謹賀新年」。

そう年賀状を出そうと必死だったのだ。

書道は段持ちだったがどうしても震える。沢山届くであろう年賀状の中で一番目立ちたいという色気がそうさせたのだろう。

「今年は受験勉強大変でしょうが希望が叶うようお祈りいたします」と添え書きまで書けたときには本番用の年賀状は10枚以上かかった。練習用の紙を入れるとどれくらい書いたのかは記憶にない。4・5日はかかったと思う。

小さな満足感と大きな高揚感、そして元旦を遅れて来るであろう彼女からの年賀状。もし、返事が来なかったらどうしよう。色んな気持ちが織りなす異常な感覚は初めてのものだった。