あの日


海辺に着くと


教えられた岩場へ行ってみた


肩や足首を軽く回してから


滑りそうな岩をよじ登る


腹ばいになり


岩の下を覗くと


一部分の砂だけが


キラキラと輝いているのがわかった


人魚が打ち上がったという場所だ


博士が言った通りだ


私は腕を伸ばして輝く砂を

 

海水ごと小瓶にすくい取り


誰にも見られないよう


コートのポケットに忍ばせた


静かに岩場を降りて車に乗ると


子供達が待つ施設へと急いだ


子供達の命が消えてしまう前に届けなければ

 

アクセルを踏んだ途端に


曲がり角からトラックが突っ込んできた


私は車から放り出され


ポケットの中の小瓶が割れて


洋服の上から砂が身体に染み込んだ


こうして私は


歳をとらず病にならない身体となった


後日岩場へもどってみたが


台風の荒れた波が


岩場を流してしまい


輝く砂はどこにも見られなかった


私は岩場の上に立ち


途方もなく遠いあの日の出来事を


今日も思い出している