15年ぶりにヨロに会った


庭にある薔薇の木の下にて


「やあ、久しぶりだね」


ヨロは薔薇の枝にぶら下がりながら言った


「もう魔女仕事は辞めようと思ってるんだけど」


薔薇の剪定をしながら私が答える


ヨロは器用に薔薇の花の中央に飛び移ると笑いながら言った


「無駄な考えだね、君の全ての細胞は生きる喜びを求めているんだから」


ヨロが揺らした薔薇の花から甘い香りが流れ出し私を包み込んだ


「そうは言ってもねぇ、税金は払わないといけないし、老後の貯金もしないと不安だし、もう40代後半だし、子供みたいなまねはもうできないわあ」


私は蜘蛛の巣を払うようにヨロに向けて手のひらで追い払う仕草をした


「考えてもごらんよ、こんなにたくさんの草花がある星は地球しかないんだよ、肉体があるうちしか香りや味、触感を感じることはできないんだからね」


ヨロは空中で一回転して私の顔に花粉を撒き散らしながら消えた


「死ぬ瞬間に、もっと貯金すれば良かったあ、とか、もっと仕事すれば良かったとかいう人はいないよ〜」


という言葉がヨロの消えた空中から微かに聴こえたあと静寂が訪れた


この妖精なのか小人なのか、はたまた小さい宇宙人なのかわからない生き物に私はヨロと名前をつけた


毎回ヨロが出現すると私の人生は思いもよらない方向へと動き出す


その夜私は7年ぶりにアロマテラピーの教科書を開いた


植物の命がたくさんつまった精油のことを勉強しなおしてみよう


庭に面した窓を開けるとヨロが薔薇を揺らした時のように甘い香りが部屋に流れ込んできた