夕暮れになると
右の部屋からも
左の部屋からも
下の階からも一斉に
歌声が聴こえてくる
耳をすませると
右の部屋からはフランス歌曲
左の部屋からは日本歌曲
下の階からはイタリアオペラと
ドイツリートという具合
しばらくの間
歌のチャンポンを楽しんだ後で
ピアニスト志望の私が
のんびりとピアノを弾きはじめる
大学時代に下宿していた
小さなアパートは
歌い手が集まるアパートで
みな競うように成績優秀だった
時々演奏会のチラシを手に取り
懐かしい名前の数々を確認すると
あの夕暮れの騒がしい時間を思い出す
あのアパートの住人達は
今だに歌い続けているのに
私はあの時と同じように
のんびりと過ごしている
私には私の道があるのかしら
と思いながら
今日の夕暮れが過ぎてゆく