「認知症の高齢者に抗精神病薬重い副作用も…」
まるで「反精神医療ブロガー」の書いた記事のタイトルのようですが、これは8月6日夜のNHKニュースのヘッドライン(1)です。
ニュースを要約すると…
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▼「はいかい」などの症状が出た認知症の高齢者に「抗精神病薬」と呼ばれる薬が投与された結果、寝たきり状態になるなどの重い副作用が出ていたケースがあることがNHKが専門医を対象に行ったアンケート調査で明らかになった。
▼厚生労働省は「抗精神病薬」の使用に関するガイドラインを見直し、副作用に対する注意喚起などを詳しく盛り込む方針を決めた。
▼抗精神病薬は、はいかいや暴力行為などBPSDと呼ばれる症状を抑えるために家族などの求めに応じて使われることもあるが、国のガイドラインでは「基本的には使用しないという姿勢が必要」と定められ、慎重な使用が求められている。
▼アンケートで具体的な副作用について尋ねたところ、薬の効きすぎで活動が鈍くなったり寝たまま、ぼーっとしたりする「過鎮静」を挙げた専門医が多く、中には歩くことが難しくなり寝たきり状態になったり、食事を飲み込む機能が低下したため、腹部に穴を開け、管から栄養を取ったりする深刻なケースもあった。
▼多くの場合、薬を減らしたりやめたりすることで症状が改善した。
▼認知症の高齢者への「抗精神病薬」の投与について、アメリカでは10年前、感染症や脳血管障害などによって死亡率が1.7倍程度高くなったとして使用を控えるよう警告が出されている。
▼抗精神病薬によるBPSDの治療法が確立していないため、日本では保険適用は認められていないが、医療現場では処方箋に精神疾患など別の病名を書き抗精神病薬が処方されているのが実態。
▼認知症専門医で国立長寿医療研究センターの遠藤英俊医師は、「日本の抗精神病薬の処方は海外と比較して規制もないなかで漫然と処方されている傾向にある。抗精神病薬は適切な使用量や期間を定めて使うことが大切だ」と話している。
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高齢者への処方に関しては以前から「残薬」が問題視されています。「残薬」は、在宅の高齢者だけで400~500億円に迫るとみられ、国も本格的に体制を見直す検討を始めたと報じられています(2)。
在宅の高齢者だけで500億円ですから国民全体ではいったいどれほどの「残薬」が私たちの「国民健康保険」で処方されているのでしょうか…
介護する「高齢者」は家族に居ないから… と無関心でいられる問題ではありません。
文中の「BPSDと呼ばれる症状」とは、認知症の周辺症状のことで「行動・心理症状」とも言われます。
Behavioral and Psychological Symptoms of Dementiaの略語です。(Dementia → 医学用語の「痴呆」)
このニュースの「重要」な箇所は…
▼BPSDと呼ばれる症状を抑えるために家族などの求めに応じて使われる
▼処方箋に精神疾患など別の病名を書き抗精神病薬が処方されている
▼規制もないなかで漫然と処方されている傾向にある
▼多くの場合、薬を減らしたりやめたりすることで症状が改善した
つまり…
家族などの求めに応じて「精神科医が別の病名」を書き「抗精神病薬が規制もないなかで漫然と処方」されているが、多くの場合、薬を減らしたりやめたりすることで「症状が改善」した。
ということです。
ここでも多くの精神科医が「処方する為」に「主観」で病名を付けていることが分かります。
私の父も亡くなる前、「暴力行為」などのBPSDと呼ばれる症状はありましたから、介護されるご家族の気持ちは理解できます。しかし、抗精神病薬は非常に「危険なクスリ」です。脳に直接作用するので「行動鎮静」の効果はあるのかもしれませんが高齢者本人にとっては「病気を治療」する薬ではありません。
アメリカ国立精神衛生研究所 (NIMH) のトーマス・インセルは「不運なことに、現在の薬は快方に向かう人があまりに少なく、治る人はほとんどいない」つまり精神科の薬は「対症療法」が主であって、元の疾患を完治させる薬は少ないと述べています。
高齢者に対する「危険なクスリ」は、「抗精神病薬」だけではありません。
日本老年医学会が「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト」(3)をネットに公開しています。
そこには、私も飲んだことのある「デパス」や「セルシン」が記載されています。
そのリストから「ベンゾジアゼピン系薬剤」だけを抜粋してみると…
▼短期作用型ベンゾジアゼピン系薬
ロラゼパム[ワイパックス]、アルプラゾラム[コンスタン、ソラナックス]、トリアゾラム[ハルシオン]、エチゾラム[デパス]
▼長期作用型ベンゾジアゼピン系薬
クロルジアゼポキシド[バランス、コントール]、ジアゼパム[セルシン、ホリゾン]、クアゼパム[ドラール]、クロラゼプ酸[メンドン]
▼超長期作用型ベンゾジアゼピン系薬
ロフラゼプ酸エチル[メイラックス]、フルトプラゼパム[レスタス]、メキサゾラム[メレックス]、ハロキサゾラム[ソメリン]、クロキサゾラム[セパゾン]
日本薬学会と埼玉県薬剤師会との共同研究によれば、複数レセプト間での重複処方が最も多いのは内科と整形外科の組み合わせであり、重複頻度の高い薬剤は「エチゾラム(デパス)」、該当者の平均年齢は約70歳であったそうです。その原因は「エチゾラム(デパス)」が法律上の向精神薬に指定されていないことを挙げており、法の規制対象にすべきだと述べています。
2010年に「国際麻薬統制委員会」は、日本でのベンゾジアゼピン系の消費量の多さの原因に、医師による不適切な処方があるとも指摘しています。
世界保健機関 (WHO) は、1996年の「ベンゾジアゼピン系の合理的な利用」という報告書において、ベンゾジアゼピン系の利用を「30日までの短期間」にすべきとしています。
4週間以上の「ベンゾジアゼピン系薬剤」の処方は世界的には推奨されていません。
参考になれば幸いです…
nico
(1) 認知症の高齢者に抗精神病薬 重い副作用も
http://start.jword.jp/topics/start/www3.nhk.or.jp/20330/2015-08-06%2019:22:32/top
(2)飲めずに「残薬」、山積み 高齢者宅、年475億円分か
http://www.asahi.com/articles/ASH465DMZH46UTIL026.html
(3)高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物のリスト(日本老年医学会)
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/pdf/drug_list.pdf
参考
「高齢者は使用を避けることが望ましい薬剤リスト」 (国立保険医療科学院)
http://www.niph.go.jp/soshiki/ekigaku/BeersCriteriaJapan.pdf
多剤大量処方(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%9A%E5%89%A4%E5%A4%A7%E9%87%8F%E5%87%A6%E6%96%B9