前回の記事「新・精神医療ルネサンス」(1)、佐藤記者の最後の言葉
「それはピント外れの安全神話にくるまれて長く見過ごされ、被害が拡大した。その教訓を、我々は忘れてはならない。」
「ピント外れの安全神話」
この言葉から、ある「ドキュメンタリー番組」を思い出した。
科学者カール・セーガンが案内役を務める海外ドキュメンタリーの「COSMOS」
第何話かは忘れたが「クリーンルーム(無菌室)」というタイトルの話しです。
クレア・パターソン(2)という科学者が、「大気中の鉛濃度」から、鉛による環境汚染を指摘した。
パターソンは「大気汚染」の原因が、「ガソリン」に含まれている「鉛」であることを発見し、学会で発表した。
ところが、恐ろしい「相手」を敵にしてしまった。
当時のアメリカは、「車産業」隆盛時代。「国際石油資本」は政界、財界、科学界を支配しヒエラルキーの頂点に君臨していた。その支配層の最も重要な基幹産業が「ガソリン」の製造・販売であった。
「石油会社」は、御用学者を使い、徹底的にパターソンを攻撃した。
玩具メーカーも、当時は「金属製」のオモチャに「鉛」を使用していたので攻撃に加わった。
議会の公聴会で「石油会社」は、当時「権威」とされていた「御用学者」の書いた鉛は安全だという「論文」を引用し、パターソンを攻め立てた。
パターソンの「鉛危険説」は退けられ、彼は学会を追放され、あらゆる社会的迫害を受けた。
しかし「数十年」の時を経て博士の命懸けの活動はようやく実を結んだ。
徐々にではあったが、「鉛の危険性」が社会に浸透し、ついに1986年、あらゆる場面での鉛使用に「厳しい規制」が適用されることになった。
これは1980年代から始まった、向精神薬の異常な量の処方の「社会構造」と酷似している。つまり「石油会社」を「製薬会社」に置き換えれば、今何が起こっているのか知ることができる。
いつの時代にも「リスク」と「ベネフィット」の攻防がある。
国は「ベネフィット」を優先し、「規制」は後回しになってしまうことは「歴史」が語っている。
日本においても、例えば殺虫剤の「DDT」
ノミ・シラミによる伝染病を防ぐ目的(ベネフィット)で、また農家が害虫退治の目的で、DDTは大量に使われた。
戦後、駐留軍によって子ども達の頭からDDTが吹き付けられる様子のテレビ映像が流れたため、DDTは人体に無害であるという印象を多くの人に与えた。
発がん性などの「毒性」が問題になり、1971年に製造・使用ともに禁止されたが、過去に大量に散布されたDDTは、現在でも母乳から検出され、環境からも検出されている。
そして、決して腐ることのない特殊な「鉱石の糸」、「アスベスト(石綿)」
アスベストは耐熱性、絶縁性にすぐれ(ベネフィット)、各種パッキング、摩擦材などに幅広く使われた。
アスベストも有害だと分かっていながらも、その有用性・経済性から「管理して使えば安全」と国は十分な規制を行わず、約1千万トンを消費した。使用禁止はヨーロッパ諸国に遅れること10年以上たった2006年である。
その「無策」の10年間にアスベストが原因で多くの人が、肺疾患(肺線維症、肺癌の他、悪性中皮腫)になり苦しんだ。
「トランス脂肪酸」はとても危険な化学物質であると、多くの科学者が指摘しているにもかかわらずマーガリンやお菓子の製造に使われている。そして食品添加物、具体的には合成着色料、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、漂白剤、合成甘味料、発色剤に対しての「規制」は充分とはいえない。
精神科医の「無知」が招く向精神薬の大量処方、「鉛」に規制のように「数十年」も遅れてしまうとすれば、
いったい何人の「悩める健康人」が向精神薬の副作用で苦しむことになるのだろうか…
nico
(1)断薬後も消えない症状 (2015年3月3日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=112518
(2)クレア・キャメロン・パターソン
(Clair Cameron Patterson、1922 - 1995年)
アメリカ合衆国アイオワ州で生まれた地球化学者。ウラン・鉛法を発達させて鉛・鉛法を開発した。そして、キャニオン・ディアブロ隕石に含まれる鉛同位体を用いて、地球の年齢を45.5億年と計算した。工業的な原因から起こる大気や人体における鉛濃度の増大とその危険性についての全面的な再評価に繋がり、その後の彼の運動は、「鉛添加ガソリン」と食品缶における「鉛はんだ」の使用禁止において、大きな役割を果たした。(Wikipedia抜粋)