それぞれの音律に合う曲解説シリーズの続きです。1/6コンマの次ということで今回は1/5コンマ・ミーントーンをとりあげます。

 

1/5コンマ・ミーントーンは、最近まで私もあまり重視していませんでした。というのも、パイプオルガンに使われている音律について調べてみると、1/6コンマ系が最も多く、次いで1/4コンマのモデファイドミーントーンで、1/5コンマを使っているパイプオルガンというのは、私が調べた範囲では見つからなかった為です。

 

実際の調律手順を考えてみても、18世紀には電子チューナーのようなものが無いどころか、音響物理学のようなものさえまだ不完全だった時代で、「1/5コンマ」を正確に取るというのは非常に困難だったはずです。ジルバーマンからの言い伝えも「5~6分の1コンマ程、純正から狭くした5度を使った」という程度の話で、そもそも1/5コンマと1/6コンマを厳密に区別することすら18世紀にはなかなか難しく、実際の調律の際には幅にバラつきのある5度が適当に組み合わされて音律が構成されていたと考えるのが妥当かもしれません。

 

しかしそれでも、色々調べているうちに、1/6コンマよりも1/5コンマの方がベターなケースというのが少なからずあるらしい、ということがだんだん解って来ました。

 

○ハチャトゥリアン

 アラム・ハチャトゥリアン は1978年まで生きましたから、本人の自作自演の演奏が多く遺されています。その中で、ハチャトウリヤンのピアノ演奏に注目してみました。1950年頃の録音です。

 

 

録音が悪いので、かなりざっくりした話しかできませんが、1/4コンマほどはクセが強くなく、しかし1/6コンマよりはクセが強い気がするんですよね。そうすると、1/5コンマぐらいが比較的近いのかな?という話になってきます。ハチャトゥリアン は1/4コンマ・ミーントーンで問題無く演奏できる曲がとても多いのですが、さすがに1/4コンマは普段使いするには制約が多すぎて使い勝手が悪いので、1/5コンマぐらいを使う場合もあった、というのはありそうな話に見えます。

 

○昭和初期~1970年代までの歌謡曲

1/6コンマ・ミーントーン と 1/5コンマ・ミーントーン の差というのは非常に僅かですが、色々な曲で聴き比べてみると、なんとなく違いが見えてきます。 1/6コンマ・ミーントーン は、終始真面目な印象なのに対して、1/5コンマ・ミーントーンの方は、「基本は真面目だけど、ちょっと色気もあるよ」という演奏が得意です。そう考えると、教会のパイプオルガンに色気は要りませんから、 教会のパイプオルガンで1/6コンマが好まれるのもごもっとも、という風に見えてきます。それに対して、バレエやオペラ、娯楽用のレコード、20世紀後半からのTVの歌番組などの娯楽の場では、「基本真面目だけど、ちょっと色気もあるよ」というぐらいのさじ加減が、じつにちょうど良いんですね。

 

特にぴったりなのが、TVのゴールデンタイムの歌番組です。昭和の時代のTVは、子供からお年寄りまで家族みんなで見るものでしたから、「基本は真面目」じゃないとまずい訳です。でも、真面目なだけでは視聴率が取れないんで、「ちょっと色気もあるよ」っていう所がポイントで、昭和の演歌歌手にしてもアイドル歌手にしても、「基本は真面目だけど、ちょっと色気もあるよ」っていう路線の歌手・歌謡曲がとても多かったですよね。ここに 1/5コンマ・ミーントーン ぐらいを持ってくると、これがしっくりくるのです。もちろん例外もありますが。

 

具体例は、先日の 「20世紀ヒット曲 音律聴き比べマラソン」を参照していただければと思います。

 

 

 

余談ですが、音律的にカオスな1980年代の過渡期を経て、1990年代になると、CDの売り上げは好調な一方で、純粋な歌番組の視聴率はだんだん取れなくなってきます。代わりに歌以外のトークや面白企画などの比重がTV番組では増えてくる訳ですが、これが12等分平均律の普及とリンクしてる気がするんですよね。平均律でも、「刺さる層に刺さる音楽」を作ることには何ら問題無く、実際に大ヒット曲がたくさんある訳ですけど、それが「TVのゴールデンタイムの放送にふさわしいかどうか」は別の話です。12等分平均律は悲しげな歌が得意ですから、大ヒット曲であっても「お茶の間で、ゴールデンタイムに、家族みんなで聴きたいか?」という点では微妙な曲が多かったと思います。12等分平均律の普及は、TVの歌番組減少の一因だったかもしれません。