過去に制作したものやクラシック・ジャズなどもまぜつつ、1900年代の曲を時系列順に聴き比べる「音律聴き比べマラソン」、第1段階がだいたい終わりました。聴き比べのMIDIデータは、MIDIアーカイブサイトからの借用と、自分で短時間で打ち込んだもので構成されています。詳細はそれぞれの動画ページに明記してあります。選曲は私の好みで選びましたが、それなりに現在でも知られている人気曲を選んだつもりです。戦前の邦楽は似たような曲が多く、かといって変わった曲は楽譜の入手が困難だったりするので、年代が飛び飛びになっている所があります。自作分については出来の悪いものもありますが音律聴き比べ用ということでご容赦ください。
・1905年 ドビュッシー 「ベルガマスク組曲」より「月の光」
・1962年 ポーランド民謡「踊ろう楽しいポーレチケ」(みんなのうたより)
・1967年「 What A Wonderful World」
・1981年 Dr.スランプ アラレちゃんOP曲「ワイワイワールド」
これだけ並べて何がしたかったかと言うと、事のきっかけは「ビートルズの曲がミーントーンと案外よく合う」という話です。そこだけ聴くと、「そんなはずないだろう、バカじゃないの」で終わっちゃう話です。じゃぁその周辺はどうなんだと調べると、やっぱりミーントーン系の音律がよく合う訳です。ん?じゃぁどこまでたどれば12等分平均律が登場するのか。一部には「バッハの平均律クラヴィーア曲集以降の音律は全部平均律だ!」みたいなことを言っている人も居ます。それは本当なんでしょうか。少なくとも歴代のヒットチャートをにぎわしてきたような上記の楽曲に関して、それは大ウソだったと言わざるをえません。
こうやって並べてみて気がつくことは、「ある時期、急に、音楽家がこぞって古典調律から12等分平均律に乗り換えた」、なんていう出来事は、歴史上、存在しなかったに違いないということです。歴代の人気楽曲の中で、「真に12等分平均律で演奏すべき楽曲がどれだけあったか?」と俯瞰してみると、それはむしろ例外的なことだったと言う方が、歴史的な事実に即していると思います。前衛的な現代音楽や、何でもかんでもハ長調で演奏する初心者向けとしては、12等分平均律は便利に使われてきたことと思われますが、平均律と相性の良い事で知られるドビュッシーの「月の光」でさえ、古典調律との相性もとても良く、こうやって当時の楽曲を俯瞰してみると、それが偶然とは考えられないのです。
音楽の歴史的に見て大きな出来事としては、1980年代に安価なデジタルシンセと電子チューナーが普及した事で12等分平均律が世界的に普及したという事です。では、じゃぁそこでプロの音楽家がこぞって12等分平均律に乗り換えたかと言うと、案外そんなこともなくて、忙しい人気音楽家は慣れ親しんだ従来の音律を使い続ける場合が多かったんですね。なので、子供の頃から12等分平均律に慣れ親しんだ世代が大人になるのを待って、1990年代になってやっとそういう楽曲がヒットチャートにあがり始めるのです。しかしじゃぁそこで世の中のポップスが「12等分平均律一色になったか?」というと、そんな事も無いのです。
音楽家を志す人は、おそらく例外なく、それ以前の偉大な音楽家から大きな影響を受けていることでしょう。もはや古典調律について何も知らない世代であっても、先人の実際の音楽を通して、伝統的な音律を無意識のうちに受け継いでいるケースというのはとても多いのです。