過去に制作したものやクラシック・ジャズなどもまぜつつ、1900年代の曲を時系列順に聴き比べる「音律聴き比べマラソン」、第1段階がだいたい終わりました。聴き比べのMIDIデータは、MIDIアーカイブサイトからの借用と、自分で短時間で打ち込んだもので構成されています。詳細はそれぞれの動画ページに明記してあります。選曲は私の好みで選びましたが、それなりに現在でも知られている人気曲を選んだつもりです。戦前の邦楽は似たような曲が多く、かといって変わった曲は楽譜の入手が困難だったりするので、年代が飛び飛びになっている所があります。自作分については出来の悪いものもありますが音律聴き比べ用ということでご容赦ください。

 

1900年 瀧廉太郎 組曲「四季」より「花」

1901年「荒城の月」 ロ短調(原調)版

1902年「美しき天然」

1902年「ザ・エンターテイナー」

1903年 瀧廉太郎 「憾」 

1905年 クライスラー=ラフマニノフ 愛の悲しみ

1905年 ドビュッシー 「ベルガマスク組曲」より「月の光」

1907年「早稲田大学校歌」 ロ短調(原調)版

1912年「茶つみ」

1914年「故郷」

1914年頃 「ラ・クンパルシータ

1916年「浜辺の歌」

1917年「ティコ・ティコ」

1919年「靴が鳴る」

1921年「七つの子」

1922年「赤い靴」

1923年「シャボン玉」

1925年「からたちの花」

1927年「赤とんぼ」

・1928年「私の青空」

1929年「鎌田行進曲」

1930年「すみれの花の咲く頃」

1931年「丘を越えて」

1931年「酒は涙か溜息か」

1932年「東京音頭」(丸の内音頭)

1934年「サンタが街にやってくる」

1935年「二人は若い」

1936年 「あゝそれなのに」

1936年「うれしいひなまつり」

1936年「大阪タイガースの歌」

1937年「露営の歌」

1938年「ドナドナ」

1939年 「A列車で行こう」

1939年 「風と共に去りぬ」より タラのテーマ

・1940年 「星に願いを」

1941年 「ブギ・ウギ・ビューグル・ボーイ」

1941年 「仮面舞踏会」よりワルツ

1942年 「剣の舞」

1942年「ホワイト・クリスマス」

1944年「センチメンタル・ジャーニー」

1945年「りんごの唄」

1946年「チューチュー・ブギ」

1947年「東京ブギウギ」

1948年「そりすべり」

1949年「青い山脈」

1950年「東京キッド」

1951年「パリの空の下」

1951年「雪の降る街を」

1952年「お祭りマンボ」

1953年「サテンドール」

1954年「トランペット吹きの休日」

1955年「ちいさい秋みつけた」

1956年「ロールオーバーベートーベン」

1957年「Love Me Tender」

1958年「監獄ロック」

1959年「僕は泣いちっち」

1960年 「ONE NOTE SAMBA」

1961年 「上を向いて歩こう」

1962年「イパネマの娘」

1962年 ポーランド民謡「踊ろう楽しいポーレチケ」(みんなのうたより)

1963年「鉄腕アトムのテーマ」

1963年「ピンク・パンサーのテーマ」

1964年「サン・トワ・マミー」

1965年「ミッシェル」

1965年「ティファナ・タクシー」

1966年「バラが咲いた」

1967年 ディズニー「エレクトリカルパレード」

1967年「 What A Wonderful World」

1967年「ハロー・グッバイ」

1967年 「Daydream Believer」

1967年「ゲゲゲの鬼太郎」

1968年 巨人の星「行け行け飛雄馬」

1968年 ビートルズ 「レディー・マドンナ」

1968年 ビートルズ 「オブラディ・オブラダ」

1969年 ビートルズ 「Get Back」

1969年 ビートルズ 「レット・イット・ビー」

1970年「男はつらいよ」

1971年「小さな木の実」みんなのうたより

1971年「17歳」

1972年「瀬戸の花嫁」

1973年「てんとう虫のサンバ」

1974年「リべルタンゴ」

1974年「宇宙戦艦ヤマト」オープニングテーマ

1975年「およげ!たいやきくん」

1976年「キャンディキャンディ」

1976年「春一番」

1977年「北国の春」

1977年「Birdland」

1977年「UFO」

1978年「プレイバック Part2」

1978年「オネスティ」

1979年「魅せられて」

1979年「チキチータ」

1979年「銀河鉄道999」

1980年「雨あがりの夜空に」

1980年 「ライディーン」

1980年「恋人よ」

1981年 Dr.スランプ アラレちゃんOP曲「ワイワイワールド」

1981年「もしもピアノが弾けたなら」

1981年「風立ちぬ」

1982年 「待つわ」

1983年 山下達郎「クリスマス・イブ」

1984年「飾りじゃないのよ涙は」

1985年「翼の折れたエンジェル」

1986年「時の流れに身をまかせ」

1986年 ドラゴンクエスト序曲(抜粋)

1987年「リンダリンダ」

1988年 プリンセス・プリンセス「M」

1989年「アンダー・ザ・シー」

1990年「おどるポンポコリン」

1990年 「愛は勝つ」

1991年 「SAY YES」

1992年 「いつかのメリークリスマス」

1993年「ロマンスの神様」

1994年 「恋しさとせつなさと心強さと」

1995年「シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~」

1996年「アジアの純真」

1997年「バーチャル・インサニティ」

1997年「やさしい気持ち」

1998年「Automatic」

1999年「丸の内サディステック」

1999年「カブトムシ」

1999年「だんご3兄弟」

2000年「TSUNAMI」

  

これだけ並べて何がしたかったかと言うと、事のきっかけは「ビートルズの曲がミーントーンと案外よく合う」という話です。そこだけ聴くと、「そんなはずないだろう、バカじゃないの」で終わっちゃう話です。じゃぁその周辺はどうなんだと調べると、やっぱりミーントーン系の音律がよく合う訳です。ん?じゃぁどこまでたどれば12等分平均律が登場するのか。一部には「バッハの平均律クラヴィーア曲集以降の音律は全部平均律だ!」みたいなことを言っている人も居ます。それは本当なんでしょうか。少なくとも歴代のヒットチャートをにぎわしてきたような上記の楽曲に関して、それは大ウソだったと言わざるをえません。

 

こうやって並べてみて気がつくことは、「ある時期、急に、音楽家がこぞって古典調律から12等分平均律に乗り換えた」、なんていう出来事は、歴史上、存在しなかったに違いないということです。歴代の人気楽曲の中で、「真に12等分平均律で演奏すべき楽曲がどれだけあったか?」と俯瞰してみると、それはむしろ例外的なことだったと言う方が、歴史的な事実に即していると思います。前衛的な現代音楽や、何でもかんでもハ長調で演奏する初心者向けとしては、12等分平均律は便利に使われてきたことと思われますが、平均律と相性の良い事で知られるドビュッシーの「月の光」でさえ、古典調律との相性もとても良く、こうやって当時の楽曲を俯瞰してみると、それが偶然とは考えられないのです。

 

音楽の歴史的に見て大きな出来事としては、1980年代に安価なデジタルシンセと電子チューナーが普及した事で12等分平均律が世界的に普及したという事です。では、じゃぁそこでプロの音楽家がこぞって12等分平均律に乗り換えたかと言うと、案外そんなこともなくて、忙しい人気音楽家は慣れ親しんだ従来の音律を使い続ける場合が多かったんですね。なので、子供の頃から12等分平均律に慣れ親しんだ世代が大人になるのを待って、1990年代になってやっとそういう楽曲がヒットチャートにあがり始めるのです。しかしじゃぁそこで世の中のポップスが「12等分平均律一色になったか?」というと、そんな事も無いのです。

 

音楽家を志す人は、おそらく例外なく、それ以前の偉大な音楽家から大きな影響を受けていることでしょう。もはや古典調律について何も知らない世代であっても、先人の実際の音楽を通して、伝統的な音律を無意識のうちに受け継いでいるケースというのはとても多いのです。