あえて、小さな『魔笛』@シアターχ 2015.8.13 | リーベショコラーデ

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thoughts about music and singers

赤池 優さんがパミーナ姫をやる、というので両国まで遥々でかけました。

何度かこのブログで訴えていますが、私は『魔笛』が苦手です。
理由1 登場人物が多くて誰がなんなのか覚えられない
理由2 ストーリーが理解できない

以上の二つは全人類共通のものと思います。だからたいていの『魔笛』は
ステージ上の見栄えの演出、つまりビジュアルにチカラが入っていて
そうすると子供でも楽しめる演し物になって、お子様もどうぞ、という
オペラになりがち。ドイツでは子供が最初に見る舞台芸術はたいてい『魔笛』です。
どの公演を見てもそのビジュアルの面白さは凄い。
最近の演出だとハイテクの映像を導入したものなども現れた。
他のオペラではそういうのは考えられないでしょう。

ということで、ビジュアルは面白いけど物語が理解できないので苦手
というのが現在の全人類共通の評価ではないでしょうか。チガウ?


それを、
公演タイトルどおり
「あえて、小さな『魔笛』」としたのは偉かった。
なんでも、実は私が知らなかっただけで毎夏恒例8年目!なんだそうです。

この公演では六人しか出てきません。
パパゲーノ
タミーノ王子
パミーナ姫
夜の女王
ザラストロ(パパゲーノと一人二役)
パパゲーナ(夜の女王と一人二役)


弁者もモノスタトスも僧侶も三人の侍女も三人の童子も出てこない。みんなカット。

エセンシャル(essential)なものだけにした。これは私には分かりやすくて有り難い。
初めて『魔笛』についていけました。
子供もたくさん見に来ていて(チケット大人1000円!子供500円!)
こういうのに音楽賞(賞金付き)を授与したいものです。

それで、テーマは「歌手」なんですが、赤池 優さんです。
パミーナ姫です。
もともとこの方は素でお姫様ができる、というか
本人がお姫様な方ですが、
パミーナ姫というのはどの公演を見ても
(というかドイツ人が演じてるのしか知りませんが)
いまひとつ、キャラが分からない人です。
どんな人なのか、というのがよく分からない。
そこがまた物語に入り込めない理由な訳ですが、

今回赤池姫はそこが上手かった。アドリブがハマっていたのです。
舞台のはやーい時期にアドリブしました。
パパゲーノが蛇の被り物を片付けてパミーナ姫と一緒に退場するときに
「これ片付けるの手伝って」とパミーナ姫に言うと
「イヤ」と即答したのです。

会場はどよめきと笑いが起こりました。
お嬢さんかと思ったら嫌なことはイヤとはっきり言う。
そういうキャラクタは日本人には非常に珍しいです。
日本には「イヤ」とはっきり言える大人の女性は非常に少ない。
(ドイツ人は100%の女がはっきり言います)

そこが面白くて会場がどよめいたわけですが、
ご本人の翌日のFacebookの発言によると
あれは「アドリブ」なんだそうです。
台本には書いてない、ということです。

「イヤ」のセリフを聞いたときはあまりの自然な演技に「これは素なのか?」と
思いかけましたが、舞台が進むとパミーナ姫のキャラクタが、今まで見たことのないほど
はっきり分かってきました。「これは作ってそうしているんだ」というのが分かる。
それ(作っている事)は当然のことなんだけど、演出がそうしているのと演者がそうしているの
とでは違うはずです。そこが「舞台人の技量」というものです。アドリブは解釈の背景があって出てくるもの。

ご本人が言ってました。
パミーナは、やはり夜の女王の娘ですから、芯が強い女性だと思うのです。辛いことに泣くだけの女性ではなくて。
それに加え、柔軟性もあって素直な部分ももちろん…というようなキャラ設定で臨んでいます。
その上でのアドリブですよ^_-☆


この解説は納得しました。ただのお姫様ではない。感心しました。

こういう話をしてくれる、というところもこの方の偉いところです。
以前「ケイト・ピンカートン」を演じた人にケイトの気持ちをどう理解したかを聞いたら
こう答えました。
「役についてお話しする事は何もありません。」
「『私が何を考え解釈して舞台に立ったか』は聞いたり・読んだりすることではないと考えます。
私はそのために舞台に立つのですから必要ないと思います。分かる人もいるだろうし、分からない人は忘れるのです。」

この人は人と話をするのが「イヤ」だったのかな、と今では思います。

なんにしても赤池さんを再発見しました。歌も演技も素晴らしいパミーナ姫でした。
あれがアドリブなら次回はなんて言うんだろう?と興味津々になります。

本日と明日もあります。是非どうぞ。1000円です。終演後、お客さんとのミーティングもあるそうですよ。オペラ歌手に直接お話を聞けるなんて素晴らしい。


最後までお読み戴き有り難うございました。
■ 本文中、パミーナ姫をなんどもパミーノ姫と書き間違えていたので修正しました。
 魔笛は出てくる人の名前が覚えられないんです。(笑)