何も答えずただバスターミナルの向こう側に視点を固定したままの関口を置いて、張本は駅前のミニストップに向かった。その圧倒するような体躯に道を急ぐ人もしばし唖然とした表情を浮かべ、足を止めるが、本人は全く気にするふうでもなく、やや腰をかがめてミニストップの自動ドアに消えた。

 

 やがて、寒風がビルを通り抜ける際の奇妙な音の向こうから、微かに男性の声が聞こえてきた。風に飛ばされながら最初は途切れ途切れに、しかし徐々に聞き取りやすくなるところをみると、声の主はゆっくりとこちらに向っているようだ。

 関口の目が大きく見開かれる。今まで微動だにしなかった体がわずかに強張ったようだ。

 「あいつ」誰に言うともなく、関口が呟いた視線の先には、漸く背に何やら棒状のものを数十本と挿した、奇妙な恰好の男が歩いているのがみえた。


 しかし全く不思議な男だった。身長は170センチあるかないか。体型も取り立てて表現するものではない。服装といえば、ひどくくたびれたミリタリージャケットを着込み、膝の抜けたデニムを履いている。足元は頑丈そうなブーツで固めているが、踵の減りも激しい様子だ。

 不思議と言えば、その背に負うているものは、どうやら物干竿のようである。物干竿を何本も束ね、きれいに背負子に並べている。その長さはバランスが難しそうで、なぜこれほどまでに無造作に歩けているのか、誰ならずとも不審に思うに違いない。

 「物干、竿竹。物干の竿竹。丈夫で長持ち、二本で千円。二本で千円」こんな掛け声を朗々と上げながらゆっくりと駅前を歩いて行くこの男。その歩みは早くも遅くもなく、特に意識して歩いているようには見えぬにも関わらず、ゆったりとして思わず魅入ってしまうような独特の調子を持っていた。

 竿竹屋の男は、人通りがまばらなこの商店街の様子をさして気にする風でもなく、同じような調子で呼び声を上げながら、ゆったりと歩いて行く。関口は、しばし男を見つめたまま声も出ない様子だったが、目の前を通り過ぎるまでに近づいてきた男の方に、足を踏み出した。


 「おい」関口が声に出す。先ほど張本と話していた声とはまるで別人のように、擦れてこもったような声質に、関口自身が戸惑いを感じていた。