藤が丘で、風が鳴っていた。
冬枯れの駅前、松阪屋ストアの前を、冷たい風が吹き抜けていく。春になれば8万本のソメイヨシノが咲き誇る通りも、今は蕾を固く結び、身を切る風をただやり過ごすだけだ。
3月も終わりに近づいた土曜の昼過ぎ。普段なら人の出も多い駅前だが、今日の様なひどく冷たい日に、わざわざ外をほっつき歩く者も少ない。ましてや、昨日までの暖かさとはうって変ったこの天候だ。
その少ない人々も、冷たい気配を避けるようにして俯き加減で歩を進めている。日々の営みを購うとすぐに暖かい我が家へと急ぐのだろう。
その閑散とした商店街の真ん中、丁度白樺書房がある辺りに、二人の男が立っていた。
巨漢、というに相応しい。詰襟の学生服をだらしなく着崩している所を見ると、客観的にはいわゆる素行の悪い学生のようである。それにしてもその威容は、どこかの名のある人間と言われても何ら不思議ではない。
左側の男。腰まである長髪に堂々とした髭を蓄えている。制服の上からもそのしなやかな筋肉が体を覆っていることが分かる。
右側の男はさらに大柄で、三メートルをゆうに越えているだろう。顔立ちは深沈とした深い眼差しを持つ左側の男とは違い、まだ幼さが残っている。大きな体だが、顔に幼臭があるところにはかえって愛嬌を感じるほどだ。
「関口君、寒いっすよ。マック行きません?」先ほどからしきりに手をこすり合わせていた右側の男が、たまりかねたように言った。
「うむ。だが少し黙ってろ」関口、と話しかけられた左側の男はそっけなく切り返す。相変わらず沈んだような、どこかもの寂しい視線のままで、遠く一点を見つめている。
「そんな奴、待ってても来ませんよ。竿竹屋なんて今時儲かりませんもん。知ってます?あれで詐欺やる奴までいるんスから。ろくでもない奴に決まってますって」
「張本。お前我慢できなかったら先帰れ。もうすぐ『五時サタ』始まるだろうが。見てろ」
「もうそれ終わりましたって。とりあえずミニストップ行きません?立ち読みしながらでも見張りできますって」