「お客さん、どうしますか。お客さんのようなタフそうな人には、このステンレスのタイプがお薦めですよ」

 圧倒されていた関口の耳に、ひどく呑気そうに聞こえるその男の売り言葉が入ってくる。その声に漸く関口は答えた。

 「あんた、一体何なんだよ」

 「え、ステンレスタイプはお気に召しませんか。お客さん丸太のような腕だからこの重さ45kgのタイプが絶対カッコいいと思うんですよね」

 この男、本気か-。関口は内心胆を潰した。高校生が駅前で物干竿を購入する光景があるだろうか。どう考えてもあり得ない。にも拘らずこの男は、何の衒いもなく学生に竿を売りつけようとしている。

 頭を閃光の様に貫いた「英雄」の二文字は、何かの間違いだったのだろうか。

 関口は、今後は言いようの無い寒々しさを感じ始めていた。それは早春の季節によるものではないようだった。

 「おい、俺が物干竿欲しがってるように見えるのか。学ラン来た奴が物干竿買いに来たことあンのか」不思議な苛立ちを覚えた関口は、いつもの口調で、男に詰め寄った。