5月12日金曜日 16時

「宮島のだんまり」(みやじまのだんまり)
なんとも感慨薄い一幕。

中村雀右衛門(なかむら・じゃくえもん)の傾城浮舟太夫(けいせい・うきふねだゆう)実は盗賊袈裟太郎(とうぞく・けさたろう)の引っ込みがまるでおもしろくない。

盗賊の扮装と傾城姿が混ざった奇怪な姿だけど、弱々しく線が細くて頼りない。
これはしわくちゃに白粉が乗るような顔にならないとだめなのかなあ。

「春をよぶ二月堂お水取り 達陀」(だったん)
コロナのさなか、NHKでお水取りの中継があった。
一般の参詣者が見られない堂の中までカメラを入れていた。
それを見ていてこの「達陀」が本物のエッセンスをよく写していることに感心した。

中村梅枝(なかむら・ばいし)の「青衣の女人」(せいいのにょにん)と尾上左近(おのえ・さこん/松緑の長男 17歳)の幻想の集慶(しゅうけい)の一下りがさわやか。

尾上松緑(おのえ・しょうろく)が二役をやらずに息子に役をあてたため、左近の若さゆえの初々しさで僧集慶の煩悩が昇華された感じだった。

練行衆の総踊りでは、心の中で待ってました!と声を掛けた。
松緑が先頭に立つ姿は頼もしく、市村橘太郎(いちむら・きつたろう)、市川左升(いちかわ・さしょう)といったベテランも切れがいい。

一幕見でもう一度見たかったが、今月までそれは叶わず。

「梅雨小袖昔八丈」(つゆこそで むかしはちじょう)
髪結新三(かみゆい しんざ)
昨年の十月国立劇場での、菊之助の権太のせりふがあまりに良くてびっくりしたが、今回も新三のせりふがひかる。
白子屋(しろこや)で手代忠七(てだい・ちゅうしち)の髪を整える手つきにもわざとらしさがなく、油を手先に付け指先で溶かすところは職人の手だった。

永代橋へと花道を出てくるところで忠七を邪見に扱う剣のある目つき、言葉尻のするどさ。
忠七を組み敷いてのせりふにも爽快感に暗さが混じっている様な響きがあってゾクゾクした。

長屋では、お熊(白子屋の娘)が駕籠へと逃れる瞬間に、もたれかかっていた柱から俊敏にからだを離して「おいらに会いたくなったら」と声を掛けるところに色気があった。
とんでもない事をしでかしているわけだが、見ている方はこの魅力に参る。

下剃勝奴(したぞり・かつやっこ)に*尾上菊次(おのえ・きくじ)。チラシにこの名前を見て驚いた。菊之助の、門閥外でも役を付けるよという決意表明かな。
永代橋のたもとで後ろに目を配る目つき、水たまりを避けて走る足、ともに悪い事には一通り手を染めてきたヨと言う不良のからだつきにみえる。
長屋でせりふを聞いているときも油断のない顔つきでよかった。

肴売新吉(さかなうり・しんきち)に山崎咲十郎(やまざき・さくじゅうろう)。
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b3076b1f3ed319527f9960c5051750aede6d909
このインタビューによると、まだまだ先の役と思っていたとのことだが十分。
すかっと元気な「かつおっ!かっつお!」の声だった。

 

*尾上菊次(おのえ・きくじ)

勝奴は次には新三役を狙うような立場の役者が勤める役どころ。

なので技量の点からいっても研修所を出た歌舞伎役者が、歌舞伎座で勤める事はまずない。

しかし菊次は松也の自主公演「挑む」に参加し芝居がうまいことは証明済み。