5月2日火曜日 歌舞伎座
尾上眞秀(おのえ・まほろ)初舞台ということで、ロビーが華やかな事。
フランス語があちこちから聞こえるし、役者の奥様も総出。もちろん、今月の主役の母・寺島しのぶ、祖母・藤純子もすてきな装いで挨拶に精を出している。大変な人だかり。
久しぶりに大賑わいのロビーでなにより。
「寿曽我対面(ことぶき そがのたいめん)」
幕が開いて大名が居並んでいるのを目にしただけでわくわくする。
背景がパタンパタンと開くと、たくさんの大向こうが背中から飛んでくる。今日から大向こうの人数制限なしだということを忘れていたので、その声量でさらに気分があがる。
中村梅玉(なかむら・ばいぎょく)の工藤祐経(くどう・すけつね)は線の太い重みを感じさせて見事。後半、友切丸(ともきりまる/刀の銘)の真贋を確かめて袋に納め乍らせりふを言うところが、なんともおもしろかった。少しも武張っていない。さらさらと「ああ、確かに本物だねえ」と紐を手繰っているだけなのに。風情がいいとしか言いようがない。
尾上松也(おのえ・まつや)の五郎、尾上右近(おのえ・うこん)の十郎が登場して花道で七三で揃って数回、拍子に合わせてクッと決まるところで、最後のきまりまで待ちきれずワッと拍手が沸いた。それだけ印象が鮮烈だったということ。
過去に中村勘九郎(なかむら・かんくろう)の五郎を見ていると、松也にはもう少し腰を落として貰いたいし、両手を開いて構えた姿に気力が行き渡っていない感じがあるのも気になるが、稚気にあふれているのはいいなあ。
坂東巳之助(ばんどう・みのすけ)の朝比奈(あさひな)、抜群にせりふがいい。第一声から耳をもっていかれた。五郎の袖を引っ張る滑稽な声音も聞かせる。
幕切(まくぎれ)の*絵面(えめん)で、更に豪華な雰囲気になったのでため息が出た。
そこまで期待していなかった一幕だったけれど、お祝いのムードにはぴったりだ。
*絵面
登場している主だった役者が全員でポーズをきめて、一幅の絵画をみるような状態になることを「絵面になる」という。
「寿曽我対面」では幕切に役者が、鶴・亀・富士山になぞらえた形をとり縁起物尽くしの絵面となる。
「若き日の信長」
團十郎は最後の場面で、鼓を枕に寝るよといいながら、瞬時に出陣へと豹変する時の目の変わりようがいい。こういうところは團十郎、本当にうまい。
けれども、以前からこの脚本自体がおもしろいとは思えず、わらわらと武士が出て来て整然と居並ぶ中で幸若舞を舞って幕というのは、なんとも物足りない。
中務(なかつかさ)の爺(じい)の三男・甚左衛門役の大谷廣松(おおたに・ひろまつ)がきれいな声でせりふをいい、前髪姿の美少年になっていて素敵だった。
「音菊眞秀若武者(おとにきく まことのわかむしゃ)」
祝幕(いわいまく)が引かれたときに拍手と歓声が沸いた。
CHANELが作ったという今までにないポップな色合いと柄の幕。丸いパッチワークが風でヒラヒラなびくようになっているので、幕が動いている時がさらに素敵。
岩見重太郎(いわみ・じゅうたろう)の狒々退治という、あまりなじみのない題材。古今亭志ん生の落語「火焔太鼓」で清盛の尿瓶と岩見重太郎の草鞋というのが出て来るが、それ以外で耳にした覚えがない。
幕が開くと藤の花盛りという道具立て。正面奥に菊之助と團十郎が並んでいる。ちょっと菊之助が太り過ぎているように見える衣装だったが、FFⅩ(ファイナルファンタジー・テン)で実際にからだが大きくなったのか?
10歳の眞秀と踊っている團十郎の眼差しのやさしい事。ここに新之助(團十郎の息子10歳)と丑之助(菊之助の息子9歳)が一緒になる場面があってもよかったのに。
女の子として踊る最後の瞬間、大股に開いて一瞬男が出てしまったという設定をきちんと体で表現できている。踊りが身についている。
後半、狒々の着ぐるみを着ていた役者の動きがとてもよかった。創作された狒々の顔も怖すぎず、でも怪物でもありよくできていた。
瀧が割れて登場する菊五郎はさすがの大親分。へへ~と歌舞伎座全体を平伏させる。
帰りに歌舞伎座ギャラリー「十二世市川團十郎十年祭 特別展」へ。彼が絵を書いたいう陶器の重箱があったが、ちゃんと絵になっていた。海老蔵襲名の祝幕の絵も團十郎の絵だったし、それも展示されていたが、絵心はあったのねと今更ながら感心。
帰りがけに楽屋口から出てきた尾上眞秀クンとすれ違う。なんか得した気分。