2021年5月28日金曜日 14:00

渋谷 シアターコクーン

公演ダイジェスト映像→ https://youtu.be/B53ExRKTX1k

あらすじはこちら→http://enmokudb.kabuki.ne.jp/repertoire/760

 

45分も前の開場時に入場したら、鈴虫の音がかすかに聞こえる真っ暗な舞台が。席にボーッと座っていたら、少し明るくなり雀のチュンチュンと鳴く声が。さらに明るくなり青空に白い雲がほの見え、アブラゼミの声が騒がしくなってきた。開幕前に夜が明ける様子を仕掛けていた。

そこに町人たちだけでなく、この舞台の囃子方もブラブラと、そこここの人に挨拶しながら舞台を横切っていく。

この流れに乗っての開幕でコクーン歌舞伎を見てる~という気分に浸れる嬉しさよ。

 

休憩なしの2時間15分なので、かなり省略された場面もあれど十二分に面白かった。

 

「九郎兵衛内の場(くろべえうちのば)」で徳兵衛(とくべえ/尾上松也)が団七九郎兵衛(だんしちくろべえ/中村勘九郎)に、義父殺しの犯人はお前ではと迫り、せりふを畳みかけていくところ、団七のセリフと重なって疑惑が熱を帯びてグワッと盛り上がる。ぞくっとする面白さ。

 

この少し後のところで、団七倅市松(だんしち せがれ いちまつ)役の長三郎(ちょうざぶろう/勘九郎の次男)が、腰掛けていたところからスッと父親に近づく。親の異変を感じ取り不安に駆られて動くという事なのだろうけど、実に間のいい動きで、こんなわずかなことで芝居感の良さを感じさせて見事。

 

この場面の夕暮れ時の裏寂しくて、しかも茜色を使わない斬新な齋藤茂男の照明は見事。

 

「釣船三婦内の場(つりぶねさぶうちのば)」で、釣船三婦役の片岡亀(かたおか・かめぞう)蔵もよかった。亀蔵はいつも少し遠慮がちな立ち位置で芝居をするので時に腰が引けて見えるのだが、今回は何か吹っ切れたようにドスの効いた親分役になっていて厚みがあった。

 

徳兵衛と二役で松也が女房お辰も兼ねた。彼の脂肪分過多なむっちりとした肩が色っぽく、この二役を兼ねたのはおもしろかったし、釣船三婦がお辰の色気を不安に思う気持ちも納得できるよさだった。

 

団七の勘九郎は、決まった時の腰の落ち具合に胸がすく。

 

義平次の笹野高史は団七をいびり倒す姿が時に文楽人形のように見える。リアルに見せかけた演技ではなく、糸に乗ったからだの動かし方が惨劇を盛り上げるというお手本のような芝居。

 

逃げ落ちようとする団七と徳兵衛がバッと映像で決まる最後まで、みっちり堪能した。