2021年4月15日木曜日

11時

 

「猿翁(えんおう)十種の内 小鍛冶(こかじ)」

まず、 中車(ちゅうしゃ/香川照之)の三條小鍛冶宗近(さんじょう・こかじ・むねちか)の挙措の美しいこと。下手から登場してスッと構えた形が見事。沢瀉の模様を配した衣装を今回のために新調したそうだが、その衣装も映えていた。

 

猿之助の童子は、ほかの時でもそうだが、可愛いと言うより一癖あって妖しい。

飛び上がって垣根を越えた瞬時に姿を消す俊敏さはやはり見事。客席から声が上がった。

稲荷明神の姿となって出て来て花道七三で口を開いたら見事な金歯がキラリンと光る。少々滑稽な感じもしたが、霊性を帯びた異界の獣だと一目で納得。

 

17日放送のZOOM「部屋子の返信」で笑也(えみや)が「先代猿翁が小鍛冶で使った金歯が出てきた」という話をしたので、金歯は当代猿之助の工夫ではないと知る。

 

踊りにほれぼれして見入る。

 

相槌を打つところでは、三條小鍛冶宗近は刀の出来に静かに集中し、稲荷明神は彼の相槌を打つことが嬉しくてしょうがなくて飛び回っているように見えた。二人の打つ槌の音階が違い軽やかに楽しく響くのもいい。

 

勅使の左團次が、出て来てただ座っているだけなのに品格ある姿でその存在を示すのは見事。本人に感想を聞けば、せりふが無くて楽だったとでも言いそうだが人並み以上の結果を出す人だ。

 

今回初めて竹本(たけもと)での上演とのこと。葵太夫がTwitterで『本曲は「六下リ=ろくさがり」という調弦で始まる。「ド、ト、チン…ド、ト、テン…レロロン、レロロン」という処で「三・二・一」の開放弦のスクイ撥をするが、角度を付けるために体を右に傾けて弾く。義太夫節では珍しい調子と奏法である。』という書込みを読んでいなければ、幕開きの三味線方の動きを妙なものだと勘違いするところだった。確かに、右肩をスイングさせるような面白い動きだった。

 

「歌舞伎十八番の内 勧進帳」

配役を見た時、松也(まつや)の富樫(とがし)がうれしかった。ついつい、父親(尾上松助/59歳の若さで亡くなっている)が見たら…と思ってしまうが、こうなったら近いうちに松也の弁慶も見たい。

予想した通り、よく通る声で第一声のつかみは見事。

弁慶のせりふを聞いているときに棒立ちに見えるところがあったが、さわやかな持ち味に知性が加われば、これから幸四郎とのコンビの舞台に期待がもてる。

 

幸四郎は瀧流し(三味線の合方 https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc6/edc_new/html/231_hosozao_sp.html で聞ける)前後の舞に見ごたえがあった。扇を投げた瞬間が鮮やかで、それを取りに行く拾い上げる舞い戻るという一連の所作に目を見張る。

 

最後に花道で天を仰いで頭を下げた次の瞬間に素早く揚幕に向き直り六方の姿勢に入ったのも俊敏だった。ここで客席から拍手を受ける間を作らなかった。天に感謝を捧げたのであって、お客さんにお礼をしたのではないという芝居がきっちりできていて感嘆した。

 

勢いがあって立派でいい弁慶。欲を言えば義経(雀右衛門)の前に出た時だけは格下に見えるといいのだが、必死さが堂々として見えてお仕えしているようには見えなかった。