2018年1月2日火曜日
16:30
先ずは*歌舞伎稲荷神社に参拝して、昨年の無事を感謝し今年の無事をお願いする。
*歌舞伎稲荷神社
歌舞伎座正面に向かって右手にあるお稲荷さん。
https://www.ginza-web.com/detail/37/index.html
旧歌舞伎座では塀の中、劇場の外にあった。劇場の中から扉を勝手に開けて参拝できたが、そうしていいよという案内があったわけではないので、観客としては知る人ぞ知るお稲荷さんだった。今では通りすがりに誰でも参拝できるし、歌舞伎座ギャラリーで御朱印まで貰える。
「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場(すもうば)」
〈あらすじ 歌舞伎美人より〉
大坂堀江の角力小屋の前。人気関取の濡髪長五郎と、素人角力で名を上げた放駒長吉の大一番に多くの見物客が集まります。結果は、なんと放駒が勝利する番狂わせ。
しかし、これは濡髪がわざと負けたため。これに対し、真剣勝負ではなかったことを知った放駒は激怒。濡髪は、理由を話しても耳を貸さない放駒に次第に怒りを露わにし、手にした茶碗を握り潰して力のほどを見せつけます。遺恨を残した二人は、後日の勝負を約束し別れるのでした。
芝翫(しかん)の濡髪長五郎(ぬれがみ・ちょうごろう)、愛之助の山崎屋与五郎(やまざきや・よごろう)・放駒長吉(はなれごま・ちょうきち)二役(ふたやく)。
お客さん全員が襲名を見に来ている空気もあるのか、盛り上がらない一幕だった。
芝翫の姿はさすがに立派。だが愛之助の放駒長吉との対話がまったくおもしろくない。悠揚迫らざる長五郎のせりふと興奮している新米関取のせりふの妙味がどちらにもない。
*つっころばしの与五郎は、愛之助に脱力感がないので、早替りが見た目にも鮮やかとはいえず拍手がこない。
こういうところは新・幸四郎が抜群にうまい。
呼吸を整えて次の幕へ備える。
*つっころばし
ちょっと突くと、転びそうな軟弱な男の役柄を指す言葉。
何一つ苦労を知らないお坊ちゃまキャラのこと。
「二代目 松本白鸚(はくおう) 十代目 松本幸四郎 八代目 市川染五郎襲名披露 口上(こうじょう)」
翌日の孝太郎のブログに、拍手の音で*東西声が聞こえなかったという程の幕開き。まずはめでたい。
口開けは藤十郎。奉書を読み上げる形で訥々と紹介。
上手の末に控えた吉右衛門の挨拶のそっけない事。兄が自分達の父の名を襲名するのだから、もうちょっと暖かい言葉があってもよかったのに。
左團次は期待に応えて、暁星の学生時代から真面目な白鸚と高校時代からキャバレー通いをし始めた自分とを比較して笑いを取る。
皆のお祝いの詞を聞く白鸚の頭が他の二人に比べて、がっくり下がっているので少々心配したが何事もなく立派な挨拶。
幸四郎は力強く、染五郎はフレッシュ。
*東西声
口上の前などに舞台裏から掛ける声。〈とざ~い、と~ざ~い〉と声を高く張る。
(日本国語辞典〈とうざいとうざい東西東西〉の項目より)特に、芝居や相撲などで、見物人を静めたり、口上を述べたりするときにいうきまり文句。東西。とざいとうざい。
「歌舞伎十八番の内 勧進帳(かんじんちょう)」
歌舞伎座で二回目の幸四郎弁慶。
少しは余裕があるかと思ったけれど、舞台に入ってから目いっぱい興奮して全力疾走の弁慶だった。
*山伏問答も吉右衛門がリズムを作っているのに、幸四郎は力任せ。語尾がいきなりはじける。
襲名の高揚した気持ちを除いて芝居として見れば、こんなテンパッタ人を見たら、相当ボンヤリした関守でも〈コイツ何か隠してる〉って気付くよ。
何よりも吉右衛門の富樫(とがし)が至芸。
すべてのせりふまわしに酔ったけれど、〈止まれとこそ~〉の気合とともに構えた姿も見事!
このあと、弁慶が四天王を抑えようと金剛杖を横に持つところ、富樫と右に左にからだをかわすが、この時の吉右衛門は、杖の制御を突破しようとしているのがはっきりと見て取れた。こんなおもしろさがここにあるとは!
最後に袖を巻いて決まった顔は、悲痛な思いで万感胸に迫るといった表情。オペラグラスでしっかり見届けた。
幸四郎の飛び六法はきれい。足をあげた瞬間に力強くピタッと止まった瞬間は爽快。微塵も勢い衰えず揚幕に飛び込んでいった。
NHKの「高麗屋 三代の春」で、この直後の映像を流していた。スタッフの腕にすがって暫く動けないのも尤もだ。
染五郎の義経は〈御手を〉の所の姿が一人で光を集めているがごとくキラキラとしてきれいだった。
四天王は豪華に鴈治郎、芝翫、愛之助、歌六。
正面に四人並んだ時、芝翫が泣くのを堪えている様に見えた。
*タテの鳥羽屋里長の高音がかすれて聞こえるところが何回かあって残念。とはいうものの八十歳を越えての登壇は頼もしい。
*山伏問答
勧進帳全体の案内は↓を。
http://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/exp5/
山伏問答は、富樫が、山伏に変装している弁慶に山伏に関する質問をし、それに弁慶が答える一場面を指します。質問と答えのやり取りがリズムに乗って緊迫感が増すところです。
余談ですが〈勧進〉とは、寺社や仏像の建立や修理のために寄付を募ることで、〈勧進帳〉は寄付した人の名前と金額を記した帳面のことです。
かなり以前、鎌倉の円覚寺の前に勧進と書かれた木札が出ているのを見て、現代でも使うのかとビックリした思い出があります。
*タテ
(日本国語辞典〈たて 立〉の項目より)唄・三味線・囃子(はやし)の首位にいる者。「立者」「立唄」「立三味線」「立鼓」などの略称として用いられる。
この場合は〈立唄タテウタ〉の略称。漢字一文字で書くとわかりにくということなのか、カタカナで書くことが多い。
「上・相生獅子(あいおいじし)・下 三人形(みつにんぎょう)」
デザートの一幕。
扇雀、孝太郎、雀右衛門、鴈治郎、又五郎に何か役を振らなければならなかったのだろうけれど、
着物の裾を踏むわ、扇は落とすわ、足拍子は重いわで、何とかしてくれえ~というレベル。
劇場に入る前に歌舞伎座ギャラリーの〈コリャイイや展〉を見て来た。
入口に〈4時より幸四郎によるテープカット〉との看板が。
会場奥の舞台の前で待つこと十数分、四時十分頃に登場。
B級展示であることや、ここは大江戸温泉ではないですとか、家のものを持ってきたらフチ子さんがこんなにたくさんになったとか、染五郎が作った段ボールの桜の木を紹介する時は苦笑しながら「まあ、何というか桜の木デス…」と、笑いをまじえつつ話した後にテープカット。写真はその時のもの。
でも、テープは入り口ではなくて舞台の前にあって、幸四郎の後から入れる人はいない、というヘンな立ち位置。
完全に宣伝用セッティングだった。
開演ぎりぎりになったので、展示物はきちんと見ることが出来ず。又行かなくては。