1月4日水曜日 16:30

「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき) 義賢最期(よしかたさいご) 」
海老蔵の義賢。
2015年7月歌舞伎座の「熊谷陣屋」と同様、丸本物を海老蔵が演じると義太夫がからだにまるで入っていないため、妙な芝居になる。

兄・義朝(よしとも)のしゃれこうべを蹴る事できず長田(おさだ)を斬り捨てるところは、堪えに堪えた想いが爆発する瞬間ではないのか。
海老蔵をみていると、最初から何やら不機嫌でプンスカ怒っている様にみえるばかり。
襖の向こうに引っ込むとき、両肩をゆすって歩くところはヤンキーもどきだった。

ただ、この芝居、誰がしても最後の立廻りで「わあ!すご~い!」とすっきりしてしまうものでもあるので、身体能力の高い海老蔵の動きは、やはり見事。
飛び交う矢を避ける俊敏な仕草、戸板倒しは身長が高いだけに豪快だし、仏倒れも派手。

なんだかんだ言っても最後に「見たなあ」という満足感を与える点で海老蔵はスターなんだなと思う。


丸本物 歌舞伎狂言の分類。人形浄瑠璃文楽で初演された作品を、歌舞伎で上演するもの。(最新 歌舞伎大事典 柏書房 2012年刊)
戸板倒し 正式名称ではないらしいが便宜上こう呼ばれている。〈義賢最期〉〈戸板倒し〉で画像検索をかけるとその様子がわかる。
仏倒れ 仏像を倒すように、体を曲げずにまっすぐ伸ばしてうつ伏せに倒れる。(最新 歌舞伎大事典 柏書房 2012年刊)


「三代目市川右團次襲名披露 口上」
写真は祝幕(いわいまく)。慶応出身だから三田会なのでしょう。
新・右近ちゃん。幼稚園の年長組だそうな。一言いうたびに一呼吸おいている。
新・右團次パパに教わった通りなのだろうなあと思わせる真面目さでたくさんの拍手をもらっていた。

祝幕 襲名の時スポンサーや贔屓が贈る幕。デザインに決まりはないので、襲名する役者が人に頼んでデザインしてもらう。最近では猿之助襲名の時、福山雅治が祝幕のデザインをして話題になった。

「錣引(しころびき)」
ザ・お正月!といった舞台面。清水(きよみず)の舞台かと思ったら摂州摩耶山だそうな。
平家物語の悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)と三保谷四郎(みほのやしろう)の一騎打ちの場面が華やかに展開される。

新・右團次の線の太さは景清にぴったりだ。だが梅玉の三保谷は見た目弱々しかった。
ところが後で弟子・中村梅乃(なかむら・うめの)のTwitterで最初から仁(にん)を考えて〈爽やかな、若々しいつくりにしようと〉と考えてのことだという。

錣を実際に引きちぎる演出は初めて見る様な気がした。

とにもかくにもめでたい眺めで満足。

仁(にん) 演じる役の役柄や性格と俳優自身の個性や持ち味の関係をいう言葉。
梅玉は線の細い物静かな紳士といったイメージの役者なので、力強い武士を描き出す〈仁〉ではない、そこで役へのアプローチの仕方を考えたと言う事。


「猿翁十種の内 黒塚(くろづか)」
これが見たくて正月早々に来たようなものだ。
2015年1月歌舞伎座でも感服した舞台が再び正月に。

蓆に写る影で、ゆっくり糸車を廻すところは不気味さを感じたいのだが、こちらの気持ちが「きた、きた、きた~」と期待感極まっているので、ちょっと冷静になる時間を頂戴している様な気分。

薄の原を下って来る滑り降りるような動きから、月の光と戯れるように舞うところまで息を詰めて見つめてしまった。
足でトントンと調子をとる軽味が小気味良い。

鬼の出方が前回と違うような気がした。
後日、神田駿河台のエスパス・ビブリオ猿之助写真展で同じ事を言っている人がいたので、たぶん違っているのだろう。
写真展の題名とおり「進化する黒塚」であることに間違いない。

でも、見ている私の方が少々気持ちが昂りすぎて黒塚と言う物語を味わい損ねた感じ。

猿弥の強力(ごうりき)のおかし味、新・右團次の阿闍梨(あじゃり)のきっぱりとした力強さ、この3人で舞台の厚みが今後も増していくだろうと思うと楽しみだ。

夕食は〈かべす〉でおでん定食。終演後は友人と新年を祝って歌舞伎座を眺めながら一杯。いい晩だった。