6月9日(木)、10日(金) 18:30
国立能楽堂

「酢薑 すはじかみ」は野村萬(のむら・まん)、万蔵(まんぞう)親子の方がせりふに温かみがあってよかった。
野村万作(まんさく)、萬斎(まんさい)はどうも理が勝って聞こえて今一つ。

「安宅(あたか)」は、浅見真州(あさみ まさくに)、友枝昭世(ともえだ あきよ)二人の違いがはっきりわかっておもしろかった。

特に後半の舞。
浅見は酌掛之伝(しゃくがかりのでん)の*小書(こがき)をつけ、ワキの富樫(とがし/両日とも宝生欣也ほうしょう きんや)に酒の酌をして舞い始める。
随所で踏む足拍子の音が力強い。
前半では勧進帳の読み上げの威力を以て富樫を怯えさせたのと同様、ここでは酒を持ってただ謝りに来た富樫を舞の力で退散させんと言わんばかりの迫力。

友枝は、広げる腕が大きな空間を掴んで柔らかな延年之舞(えんねんのまい)。
緊迫した状況を一瞬離れて、かつての義経とのおだやかな時間に思いを馳せているかのような舞。
そこはかとなく悲壮感も漂う。
この余裕で、富樫をやすやすとだまし果せることが出来そうに見える。

ツレの義経は、浅見の舞台は坂口貴信(さかぐちたかのぶ 40歳位)。前回同様、大人をつかっている。
勧進帳に見せかける*往来の巻物を義経の手から受け取っていた。
義経が背負っている笈から取り出したと言っているのだから、謡に添っているわけだ。

友枝の舞台の義経は、*子方(こかた)で大島伊織。
巻物は後見が渡す。

そのほか、装束ももちろん違う。
浅見は仮髪を付け、模様大口というのか、金の柄が入った派手なもの。
友枝は、シックに白大口、 黒い絓水衣(しけみずごろも)。

*小書(こがき) 特別な演出のこと。安宅で酌掛之伝という小書がつくと、弁慶が富樫にお酒の酌をする場面が演じられる。小書がないと、その場面は演じられない。

*往来の巻物 能楽用語ではなく一般の用語。往来とは手紙の模範文例などを集めた教科書の様なものを言う。
ここでは、勧進帳に見える適当な巻物を指している。

*子方(こかた) 能・狂言で子供がする役。子供が子供の役をする場合と、子供が大人の役をする場合がある。
安宅では義経なので後者。かわいいのではなく美少年としての役割を求められているが、今現在の上演では容貌を問われることはない。ほとんどが能楽師の子で、男女どちらでもよい。


金曜日は鼻炎アレルギーが出てちょっと辛かったが、舞台を見ている間はなんともなかった。
それぞれの舞台を堪能できて満足。
帰りに友人とノンアルコールで一献傾けたのもまたよかった。