1月24日 日曜日 16:30
「車引(くるまびき)」
誰一人良い印象が残らない一幕というのもひどいもんだなあ。
金棒(かなぼう)引きの中村いてう(なかむら・いちょう)。からだが緩んでいて歩き方がきたない。
藤原時平(ふじわらのしへい)の片岡市蔵(かたおか・いちぞう)、牛車から出て来て小柄にみえるというのも残念。
*金棒引き 金棒を引き鳴らして、警固、夜番などをする人。
時平が参詣する行列の露払いとして登場する。端役には違いないが、時平の権力をかさに着て横柄な存在感を醸し出す。
松本錦吾(まつもと・きんご)の様に、この役で出て来ただけで忘れられない程良い雰囲気を醸し出すこともできる役。
*中村いてう 旧仮名遣いで表記する役者名である。勘三郎の弟子であった。風貌が師匠によく似ている。
踊りがうまい役者なので立ち居振る舞いは常に良い役者なのだが今回は残念。
「弁天娘女男白浪(べんてんむすめ めおのしらなみ) 白浪五人男(しらなみごにんおとこ)」
海老蔵の弁天小僧(べんてんこぞう)。せりふに難があるのはいつもの事だが、娘姿が無骨ではなく、大振袖をしっかり胸の前であわせて立ち姿が細く見えるようにしている様だった。
一番よかったのは、南郷の獅童にこの辺で引き上げようと嗜められ、納得いかない顔でグッと南郷を見上げる横顔。
強請騙りで世を渡って来た無法者のきれいな顔だった。
*せりふに難がある 父・團十郎もせりふのへたな役者だった。せりふの上達には義太夫の稽古が欠かせないのだが、これが満足に出来ていない節がある。
弁天小僧には名せりふ「知らざあ言って聞かせやしょう」というのがあるが、もちろん海老蔵は爽快に言う事が出来ない。
一番芸がしっかりしていたのは、番頭の市川新蔵(いちかわ・しんぞう)。以前、夏祭浪花鑑(なつまつり・なにわかがみ)の義平次(ぎへいじ)でうまいなあと注目したことがあったが、今回も腕の確かなところを見られてうれしい。
海老蔵の自主公演でこの才能を発揮する場面を与えられないのは残念。猿之助が使わないかな彼を。
背を盗んで、セリフ回しが軽くて、ちょっとエッチな番頭さんの味があった。
五人が勢ぞろいした中で、市川笑三郎(いちかわ・えみさぶろう)の赤星十三郎(あかぼし・じゅうざぶろう)だけが、聞きほれる流れの良いせりふいい。息継ぎの場所がきちんとしている様に聞こえた。
*背を盗んで 背が高い役者が小柄に見せるため足腰をかがめること。女方が男の役より背が高く見えない様にすることが多い。玉三郎など常にその状態。大変な筋力を要する姿勢。
「七つ面(ななつめん)」
海老蔵が登場したあたりで睡魔に襲われ、目覚めたら踊りはほぼ終わっていた。
その後に妙な場面がついていた。3人の暴漢が出て来て舞台番にくってかかったところへ、客席から裃姿に着替えた海老蔵が登場して留め、お客様にご迷惑をかけたから睨んでご覧に入れますというもの。
いかにも付け足しなのだが、睨む目玉は見事。白目が金色に光って見えたもの。
これがあって少しすっきりした気分になったけれど、一日の芝居としてはつまらなかったなあ。