10月21日水曜日 14:00
初台・新国立 中劇場

え!なにこれ?な舞台。

作詞・作曲スティーブン・ソンドハイム。映画「パッション・ダモーレ」をミュージカル化したものだそうな。後からWEBで読んだ映画のあらすじと舞台の筋は同じだったから、最初からこの男女関係を舞台に乗せたかったらしい。

ジョルジオ大尉(井上芳雄)、美しい子持ちの人妻クララ(和音美桜/かずねみおう)、病弱で醜いフォスカ(シルビア・グラブ)の三人の間の恋物語で、ほぼこの三人だけで物語は進行。

フォスカの人物像は見事なストーカー。ジョルジオ大尉に一目惚れして付き纏う病弱な姿、ヌラヌラとした感触の言葉はどんどん気味悪さを増して、休暇をとってクララの元へと向かうため汽車に乗ったジョルジオの座席に現れるところは気味悪さの頂点。
ジョルジオに「それは愛じゃなくて執着だ!」と拒まれたので、違う方向に話は向かうのかと思ったが、さにあらず、何の修正も入らず付き纏う。

この汽車の場面でフォスカがジョルジオ に「わたしの見た目がよかったら、きっとあなたは私を…」と言い始めるのだから、どんだけ中身に自信があるんだ君は!と完全に引いて冷めきってしまった。

フォスカは、結婚詐欺にあった過去を持つ事が途中で語られる。これが家族そろって、伯爵の偽の肩書と見た目に騙され財産を吸いつくされたという軽薄なもの。それなのにジョルジオ大尉の見た目に一目ぼれしてちゃ、学習してないじゃないですかと言いたくなるから、見ていてフォスカへ気持ちが寄り添わないこと甚だしいのだ。

心境が変わっていくのはノイローゼ気味のジョルジオの方。気持ちが離れて行ったクララを断じて「あれはまがい物の愛で、真実の愛はフォスカにあった」と言い始める結末で、見ているこっちは、この展開から置き去り。

19世紀末を舞台にしているのだから、事情に詳しくなくても離婚が困難なことは容易に想像がつく。クララがどこかで、この不倫関係を断ち切る方に舵を切るのは不自然じゃない。まがいものとか真実とか言う判断じゃないだろうに。

これが大昔の作品ならまだしも、1994年(平成6)に舞台化されているのだもの。さらに2015年に上演しようというのなら、何かしら解釈の余地がなかったのですかねえ。演出は宮田慶子。


これだけ芝居内容を悪く言っておいても、三人それぞれの演技と歌唱力は抜群だったとしか言いようがない。
終演後のトークで、音楽が難しくて楽譜を読んだだけでは音がとれなかったのは初めて(井上)とか、音に気持ちを乗せると音程がぶれるし、数小節ごとに転調するような音楽で本当に難しかった(グラブ)と言ってはいたが、不安定な調べがきれいに漂うのは、実力あっての事だろうなあと推察。
特にフォスカの醜さを、動きの悪い関節、凝り固まった筋肉という肉体で見せたシルビア・グラブの演技はよかった。