10月13日火曜日 11:00

「音羽嶽(おとわだけ)だんまり」
幕開き、音羽嶽山中の八幡神社の祭壇がなかなか立派なつくり。
奉納前にちょっと踊る、児太郎(こたろう)、萬太郎、松也が丁寧ですっきり。

奉納しようとした将門(まさかど)所持の名刀と旗印(はたじるし)を音羽夜叉五郎(おとわ・やしゃごろう/松也)が奪い取って行き、
次の場、八幡神社奥社(おくしゃ)で暗闇の中、それを取ったり取られたりの*だんまりとなる。
おもしろいとは言えないけれど、みな丁寧。

笠をかぶっている音羽夜叉五郎が「山神祠(さんじんほこら)」と書いてある大木の中に姿を消し、残りの者が*ずらりと並ぶが、*押さえの権十郎(ごんじゅうろう)にまるで貫目がなくて並んだ時に要(かなめ)にならない。

幕が閉まってすっぽんから出てきた松也のあたまは*菊百(きくびゃく)。身の軽い*六法を踏んで引っ込んでいった。

*だんまり  暗闇(くらやみ)のなかで、たいせつな宝物や手紙をめぐって幾人かの人物が探り合いの立回りをする場面を様式化したもの。
いろいろな役柄の俳優の顔見世(かおみせ)的な性格が濃い。(日国より)

*ずらりと並ぶ ↑に「俳優の顔見世 」とあるように、最後は必ず全員が横並びになるのが、だんまりのきまり。
*押さえ 全体を統率する人のこと。ずらりと並んだ時、真ん中に立つ役者が、その一座の頭で、その人に皆を圧するオーラがないと並んだ時に何の迫力もでない。ただ並んだだけになってしまう。

*菊百(きくびゃく)
百日鬘という歌舞伎の鬘がある。月代を百日剃っていない状態の髪型ということなので、盗賊とか囚人などに使う。その月代ののびたところが菊の花のようになっているのが菊百。わかりにくいが、この写真(文化デジタルライブラリーより)の鬘がそれ。



*六法 荒事の引っ込みの芸。花道を退場する時に荒々しい派手な仕草で退場することを指す。「勧進帳」の武蔵坊弁慶の飛び六法が有名。
https://www.youtube.com/watch?v=tislNyxioXA
Youtubeに團十郎の弁慶の舞台映像があった。8分過ぎから六法を見ることができる。

「矢の根」
松緑(しょうろく)の曽我五郎。せりふが明晰。
隈取の赤い部分がドット模様になっている。そういえば先月の荒獅子男之助の時にもアレ?と思ったのだった。
独自の工夫なのか、祖父・二世尾上松緑がやっていたことなのか?
*ギバが勢いよく決まって見事。
宝船の絵を枕の下に入れ、右、左と首をかしげて見る仕草に愛嬌があって、客席からも笑い声があがる。

曽我十郎に藤十郎(とうじゅうろう)。昼夜通してこれだけにしか出ない。せりふはしっかりしていたが、足腰がもう十分ではないのではないかと思ってしまう。

*ギバ 立姿から飛び上がり、キティちゃん座りの形になって着地すること。


「一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)」
仁左衛門(にざえもん)の大蔵卿。
〈檜垣(ひがき)茶屋の場〉の最後、花道で檜扇を広げ顔を隠した時、鬼次郎(きじろう/菊之助)の視線を避けるように目をぐるりと廻す。
三階からみたので良く見えたが、なんともいえない良い目。呆けているようにも見え、*本心が透けているようにも見え、こうと決めつけられない目だった。
これを見ただけで、今月の芝居は十分満足。

花道に出る前、沓が脱げて履かせてもらうという場面があったのは珍しいような。

成瀬(なるせ 腰元)は家橘(かきつ)だったが動きが雑。芝喜松(しきまつ)で見たかった。

〈大蔵館奥殿(おくどの)の場〉では、大蔵卿が性根を現してから、*小謡の「暁の明星」を謡い始めるまで、まじめで神妙。
一瞬にしてバア~ッと正体を現したというより、周りを警戒しつつスッと本性を見せたという感じ。理知的。

奥殿の背景が泉水のある庭の風景だったり、
勘解由の首を切って持ってくるのではなく、首が几帳から飛んできて転がるに任せるだけなど*違いがある。

*本心 大蔵卿は平家に味方する振りをして源氏に心寄せているという設定。アホな振りをしているだけ。
*小謡の「暁の明星」 アホな大蔵卿は狂言好きで、毎日狂言三昧で遊び呆けているという設定なので、狂言の小謡が劇中に出てくる。
「暁の明星」はその代表的なもの。
*違いがある 同じ題名の芝居でも、演者によって演出が違うことが歌舞伎にはある。家に伝わっている演じ方があり、それに伴って衣装、小道具、大道具なども変わる。



「人情噺文七元結(にんじょうばなし・ぶんしちもっとい)」
おもしろい芝居だったと、終わってすっと席をたてる楽しさがあってよかった。

團蔵の手代藤助(てだい・とうすけ)、軽いせりふまわしのうまさ。
長年、わざとらしい感じが耳について少しも良いと思っていなかったが、
同じ役を積み重ねて来て、ある日フッと絶妙のうまさを見られるのは嬉しい。

角海老女将(かどえび・おかみ)お駒の玉三郎のせりふに説得力がある。
長兵衛(ちょうべえ/菊五郎)に五十両を貸す了見を切々と語るところしみじみとした。
娘お久(尾上右近)の手にお金を握らせるところなど、たっぷりとやらずサラサラと流し、後の父娘の場面に花を持たすような感じだった。

吾妻橋のたもとで文七(梅枝)が長兵衛に金を失くした次第を話している所で、文七が「五十両が無いんでございますよ!」と叫んだ瞬間、小さな声で「あっ」と言って
懐を押さえる間が抜群によくて、こんなところがおかしくてたまらない。

時蔵の女房お兼は正座がきちんと落ち着き過ぎ。こういう貧乏長屋のおかみさん役にちょうどいい人はいないかなあ。

最後にちょっと出てくる鳶頭の松緑。律儀な佇まいがよかった。
團蔵の藤助といい松緑の鳶頭と言い、ちょっとした役に味が出ると舞台の質がぐっとあがって楽しくなる。

昼食は歌舞伎座2階の売店で、パニーニセット¥1.000。ソフトドリンクは選べなくて500mlのウーロン茶が付いてくる。
さくっと食べるのに丁度いい。