8月23日13:00-15:30
国立小劇場
*尾上右近(おのえうこん)の第一回自主公演。

「義経千本桜 よしつねせんぼんざくら 吉野山 よしのやま」
右近、きれいな忠信(ただのぶ) だった。丁寧なしぐさ、目線、まさに市川猿之助(いちかわえんのすけ)が勤める静御前(しずかごぜん)の忠僕。
花道七三(しちさん) で、顔を左右に振るところ、気持ちのいい間で柔らかい。

<売ったる物は何々、蛤蛤〉の歌詞のあたりの踊りが、二人仲良くじゃれあっているみたいで面白かった。

猿之助の静御前。花道で踊っている時、着物が擦れる音とか足さばきの音など一切ない。真空の空間で踊っているみたいだ。
鼓を肩に構えた瞬間、スッと両肩が下がった。関節ごとに精巧な油圧装置がはいっているみたいななめらかな動き。

忠信と鼓の取り合いをするところでは目が少女。

全編、右近の*父親・清元延寿太夫(きよもとえんじゅだゆう) が率いる浄瑠璃。
清元成美太夫(きよもとしげみだゆう) が歌いだしたとき、その声の良さに思わず*山台(やまだい)を見た。

最後は舞台正面で二人並んで幕。

たっぷり見た満足感に浸る。

「春興鏡獅子(しゅうきょうかがみじし) 」
35分の休憩を挟んで幕が開くと、尾上菊十郎(おのえきくじゅうろう) が家老で並んでいた。
彼のガラガラ声を聞くのは随分久しぶりな気がした。昭和7年生まれとあるから、今年83歳になるのか。まだまだ舞台で聞きたい声だ。

前半の役、弥生(やよい)の袱紗を手にした*川崎音頭(かわさきおんど) 。袱紗がどの瞬間もきれいな形。
次の手踊りのところが一番よかった。きれいな手先のくねりとともに、からだ全部が曲に乗っていた。

引っ込む直前、少しパワーダウンして手にした獅子頭(ししがしら) を花道についたのは、ちょっと残念。

胡蝶は中村京妙(なかむらきょうたえ) 、京蔵(きょうぞう) 。安心してみていられる二人。

後半の役、獅子の顔の眉の形が変わっていた。一本眉ではなくて二か所切れ目がある。この眉、どこかで見たことがある。何を参考にしたのだろう。
(後日、朝日新聞の児玉竜一の劇評で六代目菊五郎・右近の曾祖父がこの眉だったと知る)

23歳のパワー全開で毛を振る。

あともう一息芯を鍛えて、飛び上がる高さ、毛の先まで操る力をつけてほしい。それが可能だと思える踊りだから見ていても欲が出る。

幕が下りて下手から花道に姿を出した右近は、泣きそうになるのをこらえているように見えた。何度も感謝を述べ、物販も宣伝し、この舞台がDVDになることも予告して退いて行った。

この宣伝のおかげか、終演後は売り場に列ができていた。
(これも後日Twitterで知ったが、売り子に猿之助が出ていたそうだ)

来年8月6・7日の公演も楽しみだ。

*尾上右近
平成4年生まれ23歳。代々清元の家柄だが歌舞伎役者の道を選んだ。兄は清元節三味線方。母方の祖父は俳優・鶴田浩二。

*父親・清元延寿太夫
岡村清太郎の名で、歌舞伎の子役を勤めていた。私はその姿を見ていたので、ある日突然、清元を唄っている姿をみて訳が分からずびっくりした思い出がある。

*山台
歌舞伎の大道具のひとつで、音楽の演奏者が乗る台をいう。

*川崎音頭
この鏡獅子の曲の一部分を指す。そこでは茶道で使う橙色の袱紗を使って踊る。