5月15日金曜日 11:00

「矢の根(やのね)」
市川右近(いちかわ・うこん)の矢の根。
時間と人数の都合でこれになったのかしらん、と思う程しくっりとこない演目。
舞台一面、雪を頂く富士山と紅白の梅で埋められているし曽我五郎(そがのごろう)が初夢見ているのだもの、どうしても正月演目という感じが抜けない。

右近ほか、鶴亀(きかく)、猿弥(えんや)、笑也(えみや)と出ていたけれど印象薄し。

「男の花道」
こういう、絶叫ポイントがある芝居が好きなんだなあ猿之助。

長谷川一夫の十八番。様々な工夫が残されていて、それを伝えるためにもという意図はいいけれども…。
猿之助が会見で例に使った、歌右衛門初登場の暖簾口。
長暖簾の向こうに足だけ見えて、そこにスポットが当たり、ス~ッと上に動くと暖簾から覗いた顔にライトが当たるという方法が長谷川独自のものだそうな。

猿之助と長谷川では顔が違うというのは百も承知でしているのだろうけど、暖簾から覗いた猿之助の顔が実にコワイ。次の瞬間、口の端からタラ~と血が滴るかと思った。

猿之助の眼目としては、人形振りの「櫓のお七(やぐらのおしち)」と座敷舞「老松(おいまつ)」だ。
人形振りは手先と目線の動きが見事なのはもちろん、人形の固い材質が感じられるようなからだの線がありながらしなやかに躍っている。

目医者・土生玄碩(はぶげんせき/市川中車=香川照之)に座興で踊れと言う留守居役(片岡愛之助)のわがままな要求を呑めないから、替りに舞台に出演中の歌右衛門(うたえもん)を呼びつけて躍らせて窮地を脱するなんて、あまりに設定が浅くて何が男の友情ジャイという気持ちにしかなれない。

歌右衛門が客席に向かって、舞台を抜け出る許しを乞うと、客席からおばさんの声で「ハヤク、イキナ~」というのんびりした声が返って来たのはよかったな。

お昼は明治座の深川弁当。

*人形振り(にんぎょうぶり)
文楽の人形の動きで踊る。人形を遣う後見(こうけん)役もつく。今回、後見役はは若手役者、中村壱太郎(なかむら・かずたろう)。