4月1日11:00 浅草寺裏

勘三郎が亡くなって二年半で再開場された平成中村座。
しみじみ感激して一人で小屋に向かう。

小屋の入り口が建物の脇なので、最初に目に入るのが茶色のビニールの面というのは風情に欠ける。
でもワクワクして入場。さっそく美家古寿司のいなり弁当¥1.200を買う。

〈双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき) 角力場(すもうば)〉
坂東彌十郎(ばんどう・やじゅうろう 58歳)が大きい。実際に背が高い役者(183㎝)だが木戸から出てくると迫力がある。せりふにも大きさがある上に、なぜか陰も感じられて、いい濡髪長五郎(ぬれがみ・ちょうごろう 関取役)だった。

中村獅童(なかむら・しどう 42歳)が離駒長吉(はなれごま・ちょうきち 関取役)と山崎屋与五郎(やまざきや・よごろう)二役を勤める。けれども、この二役を早替りでする面白さはなくて、どちらも印象が薄い。ただ力いっぱいで余裕がないのは初日故致し方ないとして、これから違いがでてくるかな?

〈勧進帳〉
中村橋之助(なかむら・はしのすけ)の弁慶が意外やよかった。とにかく線が太い。国立の新三(しんざ)で立派すぎたのが弁慶では生きる。

最後、花道に入って幕に向かって頭をさげ、客席に向き直って頭を下げたとき、明らかにお客さんにではなく、違うものに頭を下げているのがわかって拍手が小さくなった。
ここが一番胸に迫って、この日一番の場面だった。飛六方も踏みしめる足に力があった。もちろん手拍子になりようがない。

中村勘九郎の富樫(とがし)。終始、品格の高い人物がしっかりと佇んでいる。
弁慶との問答は、二人とも力が入りすぎて緩急は無かったけれど、これは回数重ねればこなれてくるだろうな。そうなった時を又見たい。

中村七之助の義経。出てきた時きれいだった。

四天王の中で、片岡亀蔵(かたおか・かめぞう)は別格として、中村鶴松(なかむら・つるまつ)が立ち居振る舞い、せりふともに秀でていた。

〈魚屋宗五郎(さかなや・そうごろう)〉
これは、勘三郎の宗五郎がよかったという思い出がない演目。勘三郎自身は大変な思い入れがあったようだが、意気込みが先走って酒を呑むところに力が入りすぎていた。そのうち、そんな力みも無くなるだろうと思っていたのに。

勘九郎の宗五郎。父にない静かな風情の持ち味が、勘三郎にあった力みを最初から取り去っている。

今までこんな若い宗五郎を見たことはなかったように思った。若いお兄さんが亡くなった妹を思いやっているというのが、見ていてわかったのは初めてかな。

この芝居では名題昇進した中村いてう(なかむら・いちょう)の小奴三吉(こやっこ・さんきち)がうまかった。〈サンコー〉と呼ばれる軽さがあって、落ち着きのある勘九郎といい組み合わせ。宗五郎に叱られるたびにへこむ表情がかわいい。

おなぎの坂東新悟(ばんどう・しんご 彌十郎の息子)。声がよくてせりふがうまいので娘らしくて愛らしい。でも、やはり足が。足に目が行くというのがからだの動かし方に難があるということなのだろうな。

これを書き足している今日4月6日、中村屋の最古参、中村小山三(なかむら・こさんざ)が94歳で亡くなった。新しい歌舞伎座では出てくるだけで大きな拍手が沸いた。最後まで衰えたところを見せずに終わってなによりの事とご冥福をお祈りする。



今回の芝居小屋には勘三郎が十八か所に隠れているという遊びがあり、30分2回の休憩時間は勘三郎さがしにほぼ費やした。思っていたより難しくて、結局この日見つけたのは11か所。

1・定式幕
2・上手、桜席の壁
3・揚幕の右上の壁
4・お大尽席の背景、桜の木の股
5・お大尽席の裏側
6・絵看板の中
7・茶屋の壁
8・男子トイレを出た所、階段の裏側
9・大提灯
10・お茶子さんの背中 この日はお茶子頭の木村さん。
11・小屋の外の発券所の中の壁
あと7か所、夜の部を見に行く日にみつけられるか不安だなあ…。

帰りは偶然、久しぶりに会った知り合いとお花見。
被官稲荷に参って、梅園でクリームあんみつ。そのあと廻った牛嶋神社と桜の景色がよかった。



・美家古寿司
浅草の老舗寿司屋。店に食べに行きたいのだが、1人で夜の寿司屋に入る勇気がない。

・二役 早替わり
この場面では、一旦引っ込んで、衣装、化粧を替え違う役になって登場する。別の芝居では舞台の上で一瞬の内に違う役に替わるやり方もある。
長吉は若い、血気盛んな関取役、与五郎は育ちの良い坊ちゃん役。違いをみせるのが面白いところ。

・新三
〈梅雨小袖昔八丈(つゆこそでむかしはちじょう)〉通称〈髪結新三(かみゆいしんざ)〉という芝居の登場人物。

・問答
勧進帳の見どころのひとつ。「山伏問答」というところで、弁慶が本物の山伏かどうかを富樫が色々な質問をして問い詰める。二人の質疑応答が緊迫して山場となる。

・四天王
義経に付き従う家来。常陸坊海尊、亀井六郎、片岡八郎、駿河次郎の四人をこう呼ぶ。

・中村鶴松
十八代目勘三郎の部屋子(へやご)、つまり子供のうちから歌舞伎役者に預けられて芸事を仕込まれる立場で役者となり、現在20歳、早稲田大学の学生でもある。踊りも抜きん出てうまく、期待の星。

・名題昇進
http://www.kabuki.ne.jp/meikandb/rikai/nadai.html
上のサイトに詳しい説明があります。試験に受かって舞台でお披露目をする時は、いつもより良い役がつく。