2月21日土曜日 16:30
〈一谷嫩軍記・陣門〉
吉右衛門みごと。
義経の平家方に寄せる温情を察した熊谷が、我が子小次郎を敦盛の身代わりにたて首を落すまでが今回の上演。続けて〈熊谷陣屋〉が出れば、熊谷の無常感がより鮮明になるけれど、今回この二幕だけでも十分に悲しさが満ちて何とも言えない幕切れだった。
こう見事な芝居だと、途中のある一点一点がとても印象に強く残る。
まず吉右衛門登場、花道七三で武者震いをしてがちゃがちゃと鎧を揺するところ。荒々しい肉体をもった武者が勇み立っているおもしろさ。う~ん出たぞという満足感がある。鎧の下の衣裳がきれい。
菊之助の小次郎の凛々しさ、柔らかさは、この子を失う悲劇を際立たせるのに十分。
子供を使った遠見は楽しい。
〈一谷嫩軍記・組討〉
首を切る前、吉右衛門が我が子の顔をチラと見込む。彼の顔に一瞬よぎるものに目が行く。
首を打ち落とした後、平山の武者の目を欺きながら述べるせりふ「陣屋に置いてきてさえ親子の情」の悲痛な響きから、轡をとり馬の顔を上げて決まる見得の立派さ。
〈神田祭〉
貫禄の菊五郎。貫禄と言ってもこの軽味は吉右衛門には出せない。重い幕の次にすっきり。
最後にナマズの曳き物が出てきて、菊五郎がその上に乗り要石の役割を果たして決まる。お見事!
鯰の顔に愛嬌があって楽しかった。
時蔵の黒紋付がきれい。波頭の上を鶴が舞っている。差し色の朱の色が古風。
〈筆屋幸兵衛〉
幸四郎の筆幸。
児太郎が長女お雪。次女お霜に金太郎。
以前ビデオで見た十七代目勘三郎の筆幸で今の福助、染五郎が勤めていたのを思い出して見ていた。勘三郎が狂う瞬間はすごかったな。ビデオで見ていてもそれ以上の舞台に巡り合えない。
幸四郎は元士族という物堅さはあるけれど狂う程追い詰められている様にみえないな。
夕食は三越地下、うち山の弁当¥1.296。はんぺんみたいな胡麻豆腐かな?がおいしかった。
*花道七三
花道の揚幕から七分、舞台から三分の位置。この場所で止まって観客にじっくり姿をみせつつ色々な芝居をする。
今の歌舞伎座なら、一幕見席からもこの場所を見ることができる。
*遠見
人が遠くに居る設定の時に、実際遠くに居るように見せるため子役を使うことを言う。
この芝居では、沖に出て戦う熊谷と敦盛をその所だけ全く同じ扮装をした子役が出てきて演じる。その仕掛けは誰がみてもわかるから、内容にかかわらずかわいくて、楽しい雰囲気がでる。
*要石
なまずを押さえる石。地震封じ。
*筆幸
人気があった演目や場面の名前は略称が定着している。これもそのひとつ。芝居好きに〈フデコー〉と言えば通じる。