「本当に、良いんですね?」
「いいんです。私もう耐えられません死んで忘れたい」
芳樹は飛鳥にペンを差出し「太枠内をもれなく書き込んでください」と言うと
「ごめんなさい私手が不自由で書けないの」
芳樹は手を見た。
枝のような腕、震えた指先は枯葉のように色が変わっていた。
「わかりました代筆します」
そう伝え、書き込んでいった。
「誓約書なんてあるんだ、死ぬだけなのに。面倒ね」
軽く芳樹はうなずき読もうとした。
「ねぇ聞いて。私薬に溺れてこんな腕なのこんな身体なの。男にまわされて病気にもなった。だから死ぬの」
飛鳥の腕には無数の切り傷と引っ掻き傷同様に身体にもあった。
幻覚で虫がわいた際取ろうとした時の傷。
「なんでもいい早く逝かせて」
「…引取人はどうしますか」
飛鳥は涙ぐんで「いない」と言った。
「いなければ死ねないの?また生かされて耐えるの?」
辛い毎日、苦しくて明日が見えない。
「どこかないですか?なければ…」
「なければ…?」
芳樹はファイルをだした。
小さな紙だった。
“遺留品の引受人が居ない場合、荷物を持ち焼却”
「僕は嫌なんですけど」
「それでいい」
「熱いし痛いですよ」
飛鳥は黙ったまま頷いた。
芳樹は納得ならなかったがそれも飛鳥の運命と割り切らざるをえなかった。
「…その赤い扉の向こうにありますので。お疲れさまでしたよい旅を…」
後味悪い。芳樹はそう思った。
飛鳥は鞄からポングを出して火をつけた。
「最後に吸い切らなきゃね」と泣きながら。
軽くむせた後赤ち扉に向かって歩いた。
「あぁ幸せ」
続く