片桐シリーズⅣ さらば片桐佐里
S―4 拘置 2013.7.15
CUT2 取調室
中路道夫こと龍元日はスピード違反など5件の交通違反と公務執行妨害で舞鶴署に連行された。
本来の逮捕の目的が破壊活動の防止であることを思えばいわゆる別件逮捕だった。
取調べには藤玉、片桐が当たりマジックミラー越しの別室には公安の沢村が待機していた。
「なんで、交通違反でこんな取調べ受けなくてはいけないんだよ!あんたら交通安全課じゃないだろ!」
「私たちはあなたが、ある破壊活動に組しているという情報を得ている」
「そんなことを俺がしゃべると思うかい?」
「思わない、でも、ここは日本だ。我々は問い詰める義務と権利がある」
「これは明らかに別件逮捕だろう~この国はこんなことが許されるのか?」
「まあいいじゃないか?時間はたっぷりある。まず、なぜ我々から逃走しようとした?」
と、ここから完全に中路は沈黙した。
この事態は十分に予想された。
問題は、北シンギ共和国の記念日とされる7月21日まで、身柄を拘束できるか?ということだった。
それは舞鶴署だけで決めることの出来ない政治的問題だった。
当然、人権問題にも関わる。
取調室の空気が滞った時、水谷刑事が入室した。
藤玉警部の耳元で囁く。
「沢村さんがお呼びです」
この声は中路にも聞こえていた。
「ちょっとこのままでいてくれ」と片桐刑事も連れて、取調室を出る。
別室に入ると、沢村が「お疲れ様です」と迎えた。
「事態は変わりました。お2人には申し上げていまがせんでしたが、中路には以前我々公安よりマークを付けていました。
水森礼子という女性でした。しかし、彼女は必要以上に中路に接近してしまい、恋愛感情を抱き始めた気配が見られましたので、任務を解除してこの5月に東京に戻しました。
水森礼子は今、通信を全て公安に傍受されています。その水森礼子に先ほど、例の暗号のFAXが入りました。
多分、逃走中、コンビニで画像をプリントして、そのまま通信したのでしょう。
藩から中路へは情報が伝えられていました。携帯で通信して、記録を削除したのでしょう。
水森に伝えたと言うことは北シンギ共和国から寝返ったということを示します。
これで、北シンギ共和国の作戦行動の暗号情報を入手できましたし、情報リレーも分断できました。
ここは、開放してマークをつけましょう。やつが実行に手を染めることはありません」
そこにまた水谷刑事が駆け込む。
「た、大変です!中路が暴れています!」
藤玉、片桐が駆け足で取調室に駆け込むと、中路道夫が、壁にがんがん頭をぶちあてながら「俺は、俺は!」と呻いている。
額からはおびただしい血が流れている。
片桐らが入ってきた気配を感じると、更に大きく反動をつけて、頭を
ガシイ!
と壁にぶちあて、そのまま、血の跡を壁に残しながらずるずると床に崩れ落ち気絶した。
藤玉、片桐の警察関係者の後方で沢村が
「そういうことか」と言った。
中路道夫は警察署内の医務室で応急処置をされ、一晩、留め置かれることになったのだが・・・
CUT3 自決 2012.7.16 へ ここ
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CAST さらば片桐佐里 登場人物
沢村 公安の諜報員
水島千鶴 公安の諜報員
藩損義 北シンギ共和国工作員
龍元日(中路道夫) 北シンギ共和国工作員
李静蕾(日向時子) 北シンギ共和国工作員
甲羅久美 ラーメン屋「大極殿」店員
水森 礼子 公安の諜報員
香川県企業家同友会
林会長
西村国際部長
小松島青年団
村瀬浩二 牧畜と牛乳業経営
村瀬久美子 浩二の妹
K大ミステリー研究会
有野辺会長
御蔵君
佐々木さん
花澤 葉子 大山崎町の新米行政書士
藤玉 事男 舞鶴署 警部
水谷 蘭 舞鶴署 刑事
小岬 玲花 舞鶴署 交通課
片桐 佐里 舞鶴署 刑事
ケンブリッジ・セトム パトリック・コーズウエル女史の秘書
西河 豊 経営コンサルタント兼作家