ngfsvsのブログ -14ページ目

ngfsvsのブログ

ブログの説明を入力します。


 すう……。息を吸うと、狭霧はゆっくりと唇を動かした。

「高比古は、毒針を射られました。毒の名は、亥殺しの紫毒と呼ばれているものだそうです。効き目を和らげる薬が要ります。すべての薬をかき集めて、船を借り、すぐさまこちらへ来てください」
http://www.cnbair.com

『ど、毒……? 高比古様が……』

 たちまち狭霧の耳もとで、風がざわついた。それはきっと風が、狭霧の声を聞いた事代たちの悲鳴や焦りを伝えたのだ。狭霧は、きつい声でそれを咎めた。

「聞きなさい。わたしは高比古の力を借りて話していますが、どれだけもつかわからない。だから、口を挟まずに最後まで聞きなさい。いい?」

『は、はい。姫様……』

「わたしの声は、ほとんどの事代が聞いていると思っていいのね? なら、みんなに伝えます。誰か一人は、とうさまのもとへ走りなさい。笠沙の浜で、高比古が毒に倒れたと伝えてください。黒幕は大和の人のようですが、手を下したのは、おそらく隼人のどこかの部族の者です。高比古が倒れたことに怒って、火悉海(ほつみ)様が賊の後を追っています。相手が誰かも、数も、狙いもわかっていません。でも、なんであれ火悉海様に……阿多の若王に、高比古が理由で怪我を負わせるわけにいきません。……援軍をと、伝えてください」

 援軍を――。その言葉を告げた瞬間、身体の芯あたりがぞくりと震えた。

(またわたしは、戦を起こそうとしている――)
new era コラボ
new era 無地
 前に遠賀(おんが)で感じた凍えそうになる寒気が、ふたたび蘇った。でも、いまは感じるべきではないと無理に目をそむけて、言葉を次いだ。

「では、すぐに支度を。とうさまのもとに走る者のほかは、薬を集め始めなさい。もし近くに阿多の巫女がいれば、亥殺しの紫毒のことを聞いておいてください。でも、こちらにも巫女はいるはずだから、これはできればでいいです。……わからないことはありますか?」

『いえ、いえ……姫様……!』

 狭霧の耳もとを吹きとおるふしぎな風は、一心に狭霧のほうを向いていた。そしてそこから、さきほどあった焦りや悲鳴は薄れていた。

(よかった)

 話しかけた相手が落ちついていることにほっとすると、狭霧の唇にはおのずと小さな笑みが浮かぶ。ひそかな安堵を、狭霧は最後の声に乗せた。

「以上です。あなたたちの助けを、ここで待っています」





 夜の山道を果敢にも駆けて、笠沙の山宮へ戻っていた鹿夜(かや)は、すぐに巫女を連れてきた。

「狭霧、高比古は……」

 高比古は砂浜に寝かされていたが、さきほどから一度も目をあけない。顔色が悪くなっていて、唇の色は紫がかって見えている。身体の痙攣はおさまるどころかひどくなり、時おりびくっ、びく……と腕や背が大きくのけぞった。

 高比古のそばに膝をついた鹿夜は、青白い顔を覗きこむなり涙ぐんだ。

「紫毒の最後の徴(しるし)だわ。こうなってしまったら、あとは弱っていくだけよ。……もう助からないのか」

「鹿夜さん?」

 それを狭霧は、きつく咎めた。

 それから、鹿夜がやって来るのを目で追うあいだに下へ置いたものを手に戻した。それは火悉海の肩布で、中には毒針が包まれている。

 さきほどから狭霧は、その毒針と睨み合っていた。鼻を近づけて、つんと鼻に通る尖った匂いを嗅ぎ、火悉海の肩布ににじんだ濁った紫色の染みを見つめて、染みに向かって胸の中で問いただした。

 あなたは誰? あなたはどんな毒? 

 あなたの力を抑えるには、どんな薬が要るの? 

 あなたは、そうとう強そうね。あなたは意地っ張り? 寂しがり? それとも、獰猛?

 あなたを消すためには、どんなものが要るのかしら