Life in the Lone Star State -117ページ目

オプション付与のタイミング

今日はWSJよりこの記事。

Option Grants Draw Scrutiny

ある会社の役員が報酬の一部としてその会社のストックオプションを受け取る場合に、仮に水面下でM&Aの話が進んでいて、そのM&Aの公表の前に意図的にストックオプションが付与された場合、その役員はM&Aの公表後にストックオプションを行使することにより、株価上昇の利益を即時に得られることになり、これは問題ではないか、という話です。(交付日の株価が行使価額という前提です。)

M&Aに限らず、会社にとってFavorなニュースがあると株価は上がります。そこで、そのFavorなニュースを会社が公表する前にその会社の株を買って公表後に売れば大儲けができるというのがインサイダー取引で、これは日本でもアメリカでも禁止されています。上記のケースは、役員が自ら株を買うわけではなく、会社が新株予約権を交付してくれるという話ですから、インサイダー取引と若干場面を異にする話ではあるものの、インサイダー取引規制が禁止している行為類型に非常に近い感じがします。アメリカでは、この行為は、 “springloading”と呼ばれ、その適法性についてはインサイダー取引の問題と絡めて以前から議論があるようです。

この記事によれば、1999年から2006年までの期間で、買収の交渉が始まってからそれが公表される前に、対象会社のCEOが例年と異なるイレギュラーなタイミングでストックオプションの交付を受けたケースが110件あり、それにより各CEOが得た“Extra”な収入は平均して570万ドルだそうです。これについて、ストックオプションを付与した会社としては、「M&Aのディールとは無関係」とか、「たまたま時期がそうなっただけ」とか、「ストックオプションを付与した時点では、まだM&Aの話はpreliminaryの段階だった」といったコメントを出しており、意図的にCEOに不当な利益を付与する目的ではなかったという説明をしているようです。意図的にやっていたら違法な気がしますし、他方で、(CEOの報酬はほとんどの場合報酬委員会が決めていると思われますが、)仮に報酬委員会が買収交渉の事実を知らずにこの報酬を決めていたとしたら、なんとなくアンフェアな感じがします。

日本では、役員報酬の大部分は今でも現金交付であり、多額のストックオプションを報酬として付与するというケースはまだ少ないですし、(特に上場会社が)イレギュラーな時期に取締役会の決議だけでストックオプションを発行するというケースも多くはないことなどを考えると、アメリカに比べて問題になるケースは少ないのかもしれません。

日本のインサイダー取引規制との関係では、金融商品取引上、規制されているのは、会社関係者・情報受領者が、上場会社等の重要事実を知って、当該重要事実の公表前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け又はデリバティブ取引を行うこと(同166条)ですので、会社が買収交渉中に役員にストックオプションを付与することはインサイダーとの関係では特に問題にならないと思います。(また、新株予約権の「行使」も特定有価証券等に係る売買にはあたらないと解されています。)会社に損害を与えかねない有利発行の場合には、株主総会の決議が必要ですので、この点で株主の利益は保護されているということなのでしょう。

ただ、株主総会決議を取る場合であっても買収の事実を公表しないまま株主の承認決議を取って直後に買収を公表した場合というのは、それでも決議に瑕疵はないと言えるんでしょうかね。説明義務の違反があったことは総会決議の取消事由にあたるという裁判例もありますので、このあたりどう判断されるか分からないような気もします。買収交渉している際に、役員がストックオプションの交付を受けるために買収の事実を公表するなんてことはあり得ないでしょうし、やるとすれば黙って決議を取って、別に買収とリンクしてるわけではないと説明するんでしょうかね。総会決議が必要な場合には、定時以外のタイミングでやるというのは悪意の推定が働くようで構造的に難しい気がします。そうすると、日本でも問題になりうるとすれば、委員会設置会社の場合になってくるんでしょうかね。

(10/14追記)アメリカの証券取引法では、発行会社自体もインサイダー取引の主体となり得るようです。去年ロースクールでもう少し勉強しておくんだった。。