ナニモナイ | ソーダ水の夏

円盤。きりぎりす。つつじ。呪文は何でもいい。自分が子供の頃に好きだったものをぜんぶ言うんだ。

多分僕らは、紙芝居も、水あめもない子供時代を送っているんだ。それは豊かで貧しい時代だ。誰もが要らないはずのものを喜んで買っている時代。電子ゲームはリセットを教え、取り返しのつかない事件の種を植え付けている。

だから、ここへはそんなもの置いてきていいんだ。権威や立場が子供の頃にあっただろうか? 返らないメールの異常な多さを誰もが疑問に思わないんだ。けれどここに来れば。

ここには、なあんにもないんだ。理科なら絶対零度の世界。算数なら、座標の真ん中に光る一つ目のゼロ点。真っ白な画帳。音を出す前の楽器。素敵な無音の響きが返事をして、自分が元に戻れる場所。もちろん鏡の向こうにだって、夢の中にだってある世界。

子供の頃は、なんだってできる。それは、「ナニモナイ」のお化けが支えてくれるからなんだ。「ナニモナイ」は世界の裏側のほんの薄っぺらいところで、君たちがなくならないよに支えているのさ。おお、って泣くときも、えーん、うう、イーだ、あっと思うときも、「ナニモナイ」はいつも嬉しがってる。そこから何かが生まれてくる。「ナニモナイ」は寂しがりやなんで、何かができれば嬉しいんだ。


君たちがここにいること。

もし、疲れてしまったら、「ナニモナイ」に会いにいこう。

「ナニモナイ」は怒らないし、ただ黙って包んで寝かせてくれる。

明日また戦えるようにそっと撫ぜてくれる。

 

「ナニモナイ」の、はなし。