『エクスペリメント』 | 三つ子の魂百まで…トラウマニア

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2010年の締めくくりとして
先週観に行った『キック・アス』の次に
ヒューマントラストシネマで
エイドリアン・ブロディ主演
『エクスペリメント』をハシゴ。
$三つ子の魂百まで・・・トラウマニア-『エクスペリメント』ポスター


主人公トラヴィスは
日当1000ドル支給の求人広告に目が留まる。
早速面接を受けに向かうと
大勢の希望者が殺到していた。
会場で人当たりの良さそうな黒人バリスと
意気投合するトラヴィス。
事情あり気な面子も多々いる。


数々の試験に合格し見事採用に至った
トラヴィスらであったが、
研究員から発せられた仕事の
内容は驚くべきものであった。
それは研究用に作られた刑務所に
24人の被験者が看守あるいは囚人の役に扮し
14日間を過ごすと言う
一見単純そうな作業に思えた。
しかし彼らが平静を保てる時間は
一瞬に過ぎず次第に本能が目覚め始め、
秩序が崩壊し、現実さながらの監獄と化していく。
これは恐るべき心理実験であった。


高額報酬が目当てで集まった
どこか訳あり気な被験者たち。
実験に当たってのルールが幾つか用意されており、
暴力行為・離脱者・番号で呼び合う・
与えられた職務は必ず遂行しなければならない等、
これらどれひとつとして守られなかった場合は
即座に実験中止となり報酬は支払われない。


初めのうちは双方ともルール通り過ごしていたが
些細なトラブルを発端に自然と指導者が生まれ、
囚人側は平和主義者トラヴィスが、
看守側は当初血の気の多いセックス依存症の
チェイスが仕切っていたが、
体罰を与えては連帯責任になるため
知恵の回るバリスが自らリーダーにかって出る。


犬のクソのように不味い食事に
腹を立てた囚人たちが騒ぐと暴力行為なしに
事態を収拾しようとバリスが考え出したのが
過度の屈辱による体罰。
低血糖で意識を失いかけていた
ベンジーを無理矢理レクリエーションに
参加させる看守たちにトラヴィスは
痺れを切らし、インシュリンを
打たせようと模索するがバリスに見付かり、
バリカンで丸坊主にされた挙句、
看守たちの尿を浴びせられてしまう。


温厚で物静かに思えたバリスが
実は裏の顔を持ち合わせているようで、
普段母親の世話で神経をすり減らす
生活を送っており
自我を押し殺していた感情に
突然火が燃え移ったかのような
豹変ぶりには驚かされます。
指導者になった優越感から
性的興奮を覚えたのか?
股間を膨らませたりとリアルな
心理状態を迫真の演技で見せる
フォレスト・ウィテカー。
彼の印象といえば心優しきお兄さん
なんですが、そのイメージが
一気に崩壊するほど凄まじい役柄!


一方、囚人のリーダー格トラヴィスは
思いやりがありマイペースな性格ゆえ、
看守の指示に耳を貸さず
事あるごとに体罰を受けるハメに。
便器に顔をねじ込まれたり、
手錠で格子に片腕を縛り付けられた
姿がキリスト像のような印象を受ける
エイドリアン・ブロディの
体を張った名演が実に素晴らしい!
作品ごとに異なるオーラを発する
マルチプレーヤーですね。


ルールがある以上、研究者が
24時間監視しているんですが、
その全てを隈なく設置された
監視カメラによって行なっています。
違反があれば即座に実験中止を知らせる
赤いランプが作動するはずが暴力が
発生しても点灯する様子がみられないため、
双方が精神的に追い込まれ
理性を失い大自然の野獣のように
本能をさらけ出し地獄絵図が展開する様を
深く丁寧に描いていて感情移入も
凄まじいレベルで終始画面に釘付けにされる面白さ!
鬼気迫るエイドリアン・ブロディの熱演、
脇役も個性的な顔立ちの俳優揃いで
スクリーンから熱気が
ヒシヒシと伝わってきます。


一線を越える前に観ている自分が実験を中止
させたくなるような緊迫感は
見事としか言いようがありません。
集団心理が己を無意識のうちに
悪魔に化けさせる恐怖。
所栓、人間も獣に過ぎないのか?
極限下で如何に平静を保てるかを考えさせられる
重いテーマの作品ですが、
決して後味の悪い印象は
なく大変充実感を覚える映画でした。


14日間、1万4千ドルを積まれても
こんな醜いモルモットにされるのは願い下げ…。
世の中、そんなに甘い話は無い訳で…。
銀座シネパトスより狭く小さいスクリーンに
唖然としましたが、刑務所の閉鎖的空間で
自ら被験者になったかのような
錯覚に陥る辺り、かえって効果的な場所だったかも。


【公式ホームページ】
http://www.experimentmovie.com/