避難勧告が出た。
私は
高齢者だが、
足腰は
まだまだ幸い元気だ。
防災無線から
担当者の声が聴こえる。
『周りの
「おたく」に
声をかけ、
一緒に
避難してください。』
私の住む一軒家は
かかりの位置にあり、
お隣は空き家だ。
向かいは
いつも船長の恰好をしている
40代無職の青年だ。
確か、
船舶のプラモデルばかり造っている。
私は
青年に
『逃げましょう。』
と
告げた。
『いやだよ。
プラモデルが台無しになるじゃないか!』
どうしましょう?
女学校を出た私は
少し困ってしまった。

「毛屋」なんて、
食べ物なのに、と思っていたが、
幼少の私が
名付けたそうだ。
祖母はそこから
20年近く店をやっている。
もうすぐ
100歳の声を聞くが、
お店は繁盛の一途をたどっている。
老いて益々輝く祖母だ。
そんな祖母は
足腰は元気だが、
立ち仕事なので、
やはり腰が最近痛いという。
整形の先生と
整体の先生が、
コイル式のマットを勧めてきた。
私は休日を使い、
おばあちゃんとデートだ。
この
大抜家家具のショールームは
昔は
高級家具ばかりだった。
彼氏のサトルと二人で椅子を見に来て、
あまりの価格の高さに驚いた。
確かに
いいものなんだろうけれど。
大抜家家具はその後、
お家騒動があり、
価格帯も低いものから、
高級なものまで、
観て楽しめるショールームに変わった。
大抜家家具自体は
儲かってないみたいだけれど。
祖母には
折角だから、
いいベッドを買ってあげよう。
そう思い、
寝具コーナーに祖母と行く。
おばあちゃんは、
大抜家家具のショールームがあまりにも広くて、
仰天していた。
『こりゃたまげたよ。
日本の家具屋が全部買収されたのかい?』
相変わらずの
おばあちゃん節だ。
『ねぇ、
おばあちゃん、
このベッド、
かなりいいと思うよ。』
それは
電動式で起き上がる装置もついていて、
これからの祖母のことを考えたら
必要なものだと思った。
40万円したが、
今の私には買える。
大切な大切な
おばあちゃんへのプレゼントだ。
ケチケチはしない。
ふと
目をやると、
そのベッドに横になってみた祖母は
そのまま
寝息を立てている。
『おばあちゃん!
おばあちゃん!』
私は
祖母をゆすって起こそうと頑張った。