
万年筆。
サン=トゥアンに入ったとき、
とりあえず
僕は腹が減っていた。
フランスでありふれた苗字の看板が出ている
小さな飯屋に入った。
小さな机が
小さな場所に
押し込まれている。
僕のカバンは
ビーン・トートなので、
それが人に当たらないよう、
一番奥の席に行った。
そこしか
空いてなかったからだ。
僕が座った席から観て
左横は
東南アジア系の
オネエで、
右横は中国人、
その間に僕が座る。
東洋度が高い。
ここは高級ホテルじゃないので、
何処でも席はいい。
驚いたことに
ウェイトレスは韓国人の女の子だ。
僕の後ろの席には
アラビア半島から来たのかな?
という
オジサン二人が
僕の知らない言葉で
議論していた。
ここはパリ郊外。
僕は
エビと鳥の胸肉を焼いたもの、
そこの店主のおススメというか、
大してメニューはないけれど、
それと
甘いスープ、
を食べた。
安かった。
大してフランス語を知らない僕は、
レストラン関係者、
厨房をのぞくと、
3人のおじさんが
頑張ってフライパンと格闘しているので、
ウェイトレスの女の子に
メルシーとだけ言っておいた。
女の子は
「もう行くのか」という意味の言葉を
言っていたけれど、
僕は急いでいた。
このコミューンに来たのは、
蚤の市で
探しているものがあるのだ。
このコミューンを避ける人もいる。
何故なら
昔の柳が生えていた頃の目黒や、
関西なら
光が与えられる前の天王寺よりも
ガヤガヤしている。
暗い。
でも
僕は闇の街で育ち、
怖いものはない。
死ぬのも一度だけだ。
とりあえず、
ややこしいヤツが来たら、
どう
倒すか?
だけシュミレートしつつ
肩と肩がぶつかる道路を通り、
骨董市を目指す。
結果は芳しくない。
もっとオープンかと思っていたが、
何処も同じだ、
ディーラーがいる。
こういうフンコロガシがいるので、
僕が納得いく金で
買い物ができないんだ。
白けて、
僕は歩いて、
パリに戻る。
街角で、
街角で、
絵描きがいる。
音楽家がいる。
それはヒトの世界にあって
普通のことなんだけれど、
日本でやろうとすると、
・道路使用許可
・公共の場所だと今までの実績
などがいる。
使用許可は理解できるが、
「今までの実績」は
関係ないだろう。
藝術は前衛なんだ。
最先端なんだ。
先っぽなんだ。
だから、
今日から絵描きがいても
それでいいんだ。
モンマルトルで
イタリアから来て
絵をやっているんだ、という
同年代の男と知り合った。
ローライズを履いているので、
先に
『お前、ゲイじゃないだろうな?』と
イタリア語で訊いた。
すると
英語で、
ゲイじゃない、
俺の格好がそう見えるのか?
と
返ってきた。
英語で、
そんな尻出しているやつはゲイだ。
俺は
まだゲイと関わりたくないんだ、
と
僕は返した。
空港でこんなことが
1週間ほど前にあった。
入国審査をしている
アフリカ系の大きなオトコが、
結婚してくれ、と言ってくる。
それを思い出した訳だ。
そいつとデッサンをする。
この丘には
猫が多い。
お前は日本から
何をしに来ているんだ?
と
質問をされる。
『探しものさ』
と
気取って英語で答える。
夢か?
と
返ってくる。
いいや、
名声とかそんなのじゃない。
僕は
その20秒くらいの間に
猫を描いて
そいつに渡した。
そいつは驚いた。
『こういう描き方は初めてみた。
東洋の描き方か?』
『いいや、
俺の描き方だ。』
『お前はソウルフルだな。』
『お前は明日まで猫を描いてるつもりか?』
そんなやりとりを
英語でして、
何故か、
QUEENの歌を一緒に歌った。
QUEENは日本語歌詞の歌がある。
その部分を
彼は知りたがったので、
スケッチブックに、
ローマ字と
ラテン語のイタリア語ガイドを眺めつつ、
僕は
翻訳してやった。
TE O TORI ATTE
「あって」
が
「あてー」になる。
仕方ないから、
その場で
音楽記号的な波線を入れて、
一緒に歌った。
そういえば、
フレディってゲイだよな、とか
頭の片隅で思っていた。
そのイタリア人のオトコと
バイバイ、と言ったとき、
キスされた。
やっぱりお前、
ゲイだったか・・・
まあ、
掘られないからよかったぜ、
僕は
川沿いにトモダチが画学校の生徒として
部屋を借りているので、
その場所へさっさと帰った。
結局、
手許に
俺の猫は残された。
あのQUEENちゃんに
あげたらよかった。
あいつの中途半端なデッサンは
俺が持っている。
今でも
モンマルトルでナンパでもしているんだろうか。

鯉のぼり、ONE TEAM。
【上】水彩。
【下】水彩。
ネズラー通信編集部(C)
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