「レモンティー」
主人公二ノ宮実優 ニノミヤ ミユ 剣道部女子高生
ヒーロー鳴海光 ナルミ ヒカル 大学生
倉瀬槇 クラセマキ 実優の幼なじみ同じ部活 マスター 矢垣省三 ヤベ ショウゾウ 喫茶店
6月の梅雨の時期
場所喫茶店
時間15時から16時
日曜日
「それでは、始まり始まり」
マスター「いらっしゃいませ」
実優「こんにちわぁ」
槇「あんたどんだけ疲れてんのんよ」
今にも倒れそうな声で入ってきたボブカットの活発そうな女の子と、その子の後ろからさっさと行けと言うように
店の中に押し込む、彼女より少し背の高いポニーテールの少女が店に入ってきた。
アンティーク調の店内は、静かなリラックスミュージックがいつも流れており
煩いお客もいない。
町外れのこの店には、自分の時間を大切にする、年老いているが優雅な女性や、勉強にくる大学生、毛糸を編みにくる綺麗な女性等が、よく来る。
マスター「どうぞ、空いている席に」
実優「あ、はぃ、有り難うございます」
槇「ほら、もうちょっとだからヨチヨチ」
優しい初老のマスターの声に、先程まで学校の剣道部員として、汗だくになるまでしごかれていた実優は、息も絶え絶えにヨロヨロと近くのテーブルまで行き、やっとの思いで座る。
後ろから心配でゆっくりついてきた槇も
実優が座ったのを確認してからヨッコイ
と反対の椅子に座る。実優の防具は彼女が軽々と持っていたが…。
実優「死ぬかと思ったぁ。何であんなに今日厳しかったのぅ?」
マスターが持ってきた水をイッキ飲みしながら
実優が槇に文句をいう。
槇「あんた、もうすぐ大会でしょ、あんたに期待してんのよ。この前県の準決勝まで行ったあんたを」
槇が何を今さら、と呆れながら実優を見る。
実優が泣きそうな顔をし、
実優「あ、あれは偶々弱い選手とか怪我してた選手に当たったからでしょ。私そんな実力無いよ~」
手に持った空のグラスを握りしめながら
必死に槇に訴える実優。
槇は可愛そうな子を見るような目で
槇「確かに普通ならそんな人間に当たるのは良くて一回だし、あんたは二回あたって上手く上がれたのも認めるけど、県大会よ、県大会」
自分の実力を、今だに理解してないこのちんちくりんな友達に現実を教えてやる。
実優「そ、そんなぁ。槇ちゃんの方が強いよぉ」
あんな激しい、特に何もしてないのに目の敵にされる程の個人的指導は嫌だと本気で訴える実優。
槇「あたしもそう思うわ」
実優の顔を横目で見ないようにしながら水を飲む。確かに力なら槇のが上だ。
ただ、実優には、抜群の反射神経と猫のようにしなやかな身体があり、相手が動く前に大体一本とってしまっている。
其ほどまでに素早いのだ。コレばっかりは真似できない。
実優・槇「だったら槇ちゃん変わって「それは嫌」」
厳しい鬼のような先生を押し付けようとするも一瞬で断られ、唖然とする実優。
槇「大体、あんた練習の時は弱すぎるのよ」
槇が呆れた表情のまま、実優を諭す。
実優「えぇー、頑張ってるよ、私」
そんな事無いと、毎日部活出てるじゃんと頬を膨らませ槇に反論する実優。
溜め息を吐きながら槇は
槇「あのね、普段の練習、あんたすぐ疲れたって休むし、フォームぐちゃぐちゃだし。それの何処が頑張ってるの?その癖大会だとあり得ない位勝ち進むじゃない。」
こんな猫娘に前回の試合で当たり、余裕で勝てると思っている内に一本取られていた
槇は若干苛立ちながら言う。
実優「それは練習だし、暑いし、臭いし」
両手の人差し指をくっつけながらも、自分でも思い当たるふしがあるのか眼をキョロキョロさせる実優。
何で剣道部やってんだよ、と
呆れた表情で見る槇。
長い沈黙が続き、実優が槇の視線に耐えられなくなった時、
「チリン、チリン、」丁度店の扉が開き、その上の小さな鈴が鳴る。
実優「あ、だ、誰か来たみたいだよ。
め、珍しいねぇ、こんな時間に」
ばつの悪さを感じていた実優があからさまに話題を作る。
槇「あんたね」
わざとらしいわと
睨みながら、こういう子が天才なのねと、半ば今の自分の実力を受け止めている槇。
実優「ほ、ほら槇ちゃん。早くケーキ注文しないとすぐ来なくなっちゃうよ。」
いつも助けてくれる大事な友人を怒らせないように必死にその場を盛り上げようとする実優。
槇「はぁ、ここまであんたの道具運んだから何か奢りなさいよ」
なんだかんだで小さい時から後ろをついてきたこの幼なじみが大事な槇。
実優「え、えぇ、ちょ、ちょっと待ってね」
慌てて、自分の財布の中身を確認しメニューも確認してホッとする実優。
槇「別にそこまで高いもの頼まないわよ、ジュースで勘弁してあげる」
焦る友人に溜飲が降りたのか、笑いながら話す槇。
実優「そ、そう。だ、大丈夫だよ、ケーキでも」
ホッとしている自分がバレてないとでも思っているのか、見栄を張る実優。
槇「良いわよ、そんなに無理さなくても。あんたの懐具合なんて、いつも一緒にいる私が知らないとでも思ってんの?」
と実優を見ながら笑った。
実優「う、ぅう~」
恥ずかしさに少し赤くなりながらも
だったら言わないでよ~、と恨めしそうに槇を見る実優。
槇「そんなに、威嚇しないの」
猫みたいな友人を見ながら今日は久しぶりに晴れたわねと店から見える外の気色を見る槇。
実優「あっ」
その時実優が小さく反応した。
槇「ぅん?どうしたの?」
槇が、実優の視線の先に眼を移すと
先程入った客を実優が見ている事に気付く。
槇「あ、確か一昨日の」
実優と槇が見ていたのは先程実優達が
じゃれあっていた時に入ってきた客だ。
実優達のテーブルからは入り口が見えなかったので、話に夢中だった二人は気づかなかったのだ。
二人が見るお客は一人の青年だった。
男にしては長い髪をゴムで束ね、分厚い
何かの本を熱心に読んでいる。
槇はずっと見ている実優を見て笑いながら
言う。
槇「そんなに、気になるんだったら話しかけなさいよ、この前の傘のお礼だっていってないでしょ、あんた」
実優「声、声大きいよ、気づかれちゃうよ」
実優は槇の声の大きさに慌てて手で静にしてよとジェスチャーをしながら槇を睨む。
槇は再び笑って
槇「良いじゃない別に、気づかれたって」
実優「だ、駄目だよ、さっきから真剣に本読んでるんだよ」
槇「あんたさっきからって、ずっと見てたの?」
実優「え、あ、別に」
自分から、彼が入ってきた時から見ていたのをバラしてしまった実優は赤くなりながらも答えた。
槇「ふぅ~ん。あたしと喋りながらチラチラ見てたんだぁ。変態」
実優「な、変態じゃないもん」
槇のからかいに対して、
大きな実優の声に思わず店内の空気も静かになる。
実優「す、すみません」
自分の出した声が大きすぎた事に気づいた実優は赤くなりながらも立ち上がり謝る
実優を見ていた客達もまた思い思いの事をやり始める。
槇「ご、ゴメン。そんな怒るとは」
実優「槇ちゃんのせいだよ。思いっきり聞かれちゃったじゃん」
今にも泣きそうになりながら上目遣いで槇を睨む実優。
マスター「お待たせしました。メロンソーダとガトーショコラでございます」
槇「わ、悪かったって、ほ、ほらケーキ私の少しあげるから許して」
実優「うぅ。」
運ばれてきた自分のケーキをフォークで掬い実優の口まで運ぶ槇。
渋々口をあける実優。口のなかでケーキが溶けるように消えていく。
甘さと、ほろ苦さがとても絶妙で思わず笑顔になる。
槇はそんな実優にホットしながら自分もケーキを食べ始める。
マスター「お待たせしました。ミルクレープと紅茶になります」
実優「あ、ありがとうございます」
実優達が騒いだ事にも特になにも言わず
笑顔で対応する初老のマスター。
マスター「ごゆっくり召し上がってください」
マスターがまた、カウンターに戻っていく。
実優「このケーキ、一番好きなんだ」
槇「あんた、そればっかり頼むよね」
いつも同じものばかり頼む実優に色んな違う物を頼む自分との違いを感じる槇。
実優「だって美味しいんだもん」
少しずつ大事そうに食べる実優。
見てると子猫の様だ。
実優「紅茶も美味しいし」
冷ましながなら少しずつ飲む姿も…。
槇「それより、あの人、さっき思いっきり見てたわよ」
実優「ふぐぅ」
見られていた事を思いだし落ち込む実優。
彼の所にもカップが運ばれる
マスター「お待たせしました。レモンティーになります」
ヒカル「どうも」
本に夢中の彼はマスターにも目をくれず出されたレモンティーに口をつける。置かれた場所も見ずに…。
そんな所を実優と槇はみていたが実優が
違和感に気づく。
実優「あれ?」
槇「どした?」
実優の声に気づいた槇が実優に問いかける。
実優「え、うん。私もここのレモンティー頼んだ事あるけど、あれって自分で注ぐんだよ、確か」
自分が出された時の事を思いだし、不思議に思う実優。
槇「あ、そう言えばそうよね」
実優が、初めてだぁと喜びながら
ちょこちょこやっていた事を思いだし槇も彼に視線を移す。
二人で不思議がっていると
マスター「彼は良いんですよ」
実優・槇「「えっ」」
近くのお客にケーキセットを運び終え
実優達の席を通りかかったマスターが話す。
驚く二人に微笑みながら
マスター「彼は大学生で、いつもここにきて静かに勉強するのが日課だそうです」
実優「え、毎日?」
マスター「はい、ここの雰囲気がとても気に入ったと、だから出来れば自分が来る時間はいつもの席を取っておいて欲しい、あの席が、一番夕日が綺麗に見えるんだと」
嬉しそうに話すマスターを見て実優と槇は
彼を横目で見る。
彼、光は真剣に参考書を読みながらノートに必要な事を書き出していた。
レモンティーを飲みながら。
マスター「前に本に集中しすぎて、一度カップを割ってしまい、凄く申し訳ないと謝って下さった事があるんです」
実優「えっ」
実優が疑問に思っていた答えを話始めるマスター。
マスター「そこで、私が提案したんです。私がレモンティーを全て淹れてから印をつけた所にお出しすれば、気軽に飲めますかと」
実優「そうなんですか。それであの人だけ」
槇「へぇ」
二人の反応を見ながらマスターは話を続ける。
マスター「えぇ、ここは1人1人の大事な時間を過ごして頂く為のお店ですから。
彼も最初は断ったのですが、私は彼みたいな目標をもって、1日1日をしっかり生きる青年はとても良いと思ってますから。」
自分の子供のように彼、そして実優達を見るマスター。
実優「へぇ、いいなぁ」
槇「ありがとうございます。この子、一度気になると止まんない性格なんで」
話してくれたマスターに笑顔でお礼を言う槇と嬉しそうに彼を見る実優。
そんな二人を優しげに見ながら
マスター「では、失礼します」
とまた、カウンターに戻っていった。
夕日が落ち始めるとこの店は夕日の光を優しく受け止め、店内が赤一色に染まる。
この店はその時間に店内の照明をわざと落とす。光が反射するように綺麗なアンティーク調の鏡がかけてあるのだ。
一気に幻想的な赤に染まる店内で客は皆
手を止めてその光を感じる。
実優や槇がこの店によく来るのはこの瞬間がとても好きだからだ。
実優「ぅわぁ、凄い」
槇「はぁ~、綺麗」
反射した光は最終的には一ヶ所に集められる。天井とその真下にあるステンドグラスの床にある部分に光が集約されると、ステンドグラスから出た光が
真上の天井の部分に昇るようになり、光の柱が出来るのだ。
最初これを見た二人は驚きのあまり言葉を失った。それほどまで、綺麗で、温かく優しく昇る光の柱。
実優「今日も綺麗だね」
槇「そうね、今日は少し青みがかってるね」
二人はこの光景を見るために走りながらよくこの店に来るのだ。
光「今日は紫か」
温かく優しい声が実優に聞こえた。
実優が見ると、先程まで難しい顔をしていた彼、鳴海光が目を輝かせてその光の柱を見ていた。そう、愛しい人でもみるかのように…。
その顔を見ていると実優の心が切なくなった。
この光の柱はすぐに消えてしまう。夕日がこの店を照らすのはほんの数分なのだ。
そして、その光の柱が消えると彼も帰ってしまう。
実優は柱と彼を交互に交互に見ながら
意を決し、鞄から何かを探し出す。
槇「ん?あんた何探してんの?」
実優「うん、傘。やっぱり今日返す」
槇は実優が探していた物を聞いて一昨日の事を思いだした。
一昨日も二人はこの店へお茶をしに来ていた。しかしこの梅雨の時期、天候は不安定で雨が降るかもしれないと言う槇の言葉を忘れ、案の定雨は降り、実優は
傘を忘れた。
槇は帰りが遅くなると、怖い父親に拳骨されると泣きついていきた実優にほとほと困っていた。防具があるから槇の傘だけでは入れないのだ。
そんな時
光「これ、俺はいいから」
と実優達のテーブルまできた光が気だるそうに自分の傘を渡してくれたのだ。
驚きながら固まる彼女らを余所にさっさと
店を出ていく。
二人が慌てて、傘を返そうとするも既に彼は本を入れた鞄を傘代わりにして、店の前を駆け出して行ってしまっていた。
実優は申し訳なくなりながらも、その傘を借り、無事父親に怒られることもなく帰路についた。
その傘を実優は返す切欠がなかった。
彼がいつもここに来ていたのは知らなかったし、名前も傘には書いてなかった。
だが、ここに来ればまた会えると信じていた。
傘と小さなラッピングされた小袋を取り出す実優。
実優「良かった、割れてなさそう」
自分の出した小袋の中身を確認して喜ぶ実優。
槇「おや~、実優さん何ですかなそれは?
」
実優が、取り出したのが彼にあげるお礼だとすぐに気づいたがわざとからかう槇。
実優「い、良いでしょ、別に」
槇の意地悪な視線に実優の頬は膨らむ。
槇は笑いながら寧ろ私にも寄越せと思った。
こんな子供みたいな実優だが、料理や特に
スイーツはそこら辺の店より作るのが上手い。
そんな槇の心など露知らず、立ち上がった実優は立ち上がり彼のそばまで恐る恐る歩く。
槇「あんたはドロボウか」
余りにも動作が怪しい実優を見て、思わず
ツッコミを入れる槇。
静に足音を立てないように近づいた実優は
おそるおそる光るに声をかけた。
実優「あ、あの、?」
光「…」
小さすぎるのか、光が集中しすぎて聞こえてないかわからず、もう一度息を大きく吸い
実優「あ、あの?」
光「うゎ、」
大きくなりすぎたらしい。
ビックリして目をパチクリさせている光るに、大きすぎた声に同じくびっくりした実優。そして何でそんな大声だすのよと、実優の予想外な大きな声に飲んでいたメロンソーダを吹き出す槇。
固まってしまった実優をよくみて自分の貸した傘をもっている事にようやく気づいた
光は
光「あぁ、傘?」
実優「え、あぁ、はい。あ、あのこの間は、ありがとうござい、あぐぅ」
勢いよく、お礼とお礼を言いながらお辞儀した実優は、光が山のように重ねていた本に頭をぶつける。
光「大丈夫?」
この子は大丈夫なんだろうかと実優のドジぶりに笑いながら、頭を押さえて唸っている実優を見る光。
槇「どんだけドジなのあの子」
一部始終を見ていた槇は、呆れた。
実優「い、痛い」
謝ろうとしたら、頭を押さえてぶつけた。
何やってるんだろうと、半泣きになる実優。
光「これ、使って」
自分が使っていなかったお絞りを実優のおでこに当ててやる光。
実優「す、すみません」
申し訳なく思いながらも光の優しさが嬉しい実優。
少ししておでこの痛みも引いた実優は
持ってきたお菓子の入った袋をポケットからだし、光るに渡す
実優「あの、これ、お礼です。この前の」
光「ん?あぁ傘の?良いのに」
実優「甘いもの、嫌いですか?」
自分が作った物は結構上手くできてると
思っているが、甘いもの嫌いだったらどうしようと、急に不安になる実優。
そんな実優に
光「あぁ、甘いものは好きだよ。ここのケーキもよく食べに来るんだ。」
笑顔は見せないが優しそうに言う光。
実優の顔が嬉しそうに綻び
実優「そうなんですか、じゃ。じゃあこれ」と光に袋を渡す実優。
光「ありがとう」
実優「あ、此方こそ」
とお互いに礼を言いあう二人。
お礼を言い終わった実優だが、何故かその場に立ち止まったまま動かず、光は訝しむ。
光「どうし」
実優「あ、あの」
まだ何かあるのかと、聞こうとした光の声を遮り実優が
実優「私と付き合ってくださいっ。」
と大声で頭を下げる。
今度は光が本を移動していたので、おでこをぶつけることは無かったが…
店内がまた静かになった。
槇もまた吹き出した。
槇「ぶふぁ、あ、あんたどれだけ直球なの?」
口許を吹いて、むせが収まってからすぐに
実優の元まで駆けつける。
光「俺?」
まさか自分が、こんな年下の子に告白されるとは思っていなかった光が唖然とする。
実優が頭をあげ、もう一度
実優・槇「はい、私と付き合「ちょっと黙らんか、このドジ娘」痛ぁ、」
真剣な表情で言っている実優に後ろから
槇が頭を叩いた。
唖然としていた光は、この光景についていけない。
実優「痛い、槇ちゃんなにすんの?」
槇「あんた、いきなり告白するやつがあるかっ!」
痛がって頭を撫でている実優に、もう一度叩いてやろうかと言うくらい怒る槇。
実優「だって、またいつ会えるかわからないし」
涙目ながらも横目で光をみる実優。
そんな実優を放って置き、光に向かって頭を下げる槇 。
槇「すみません。この子ちょっとバカなので」
光「いや、いいんだけど…」
なんて言ったらいいかわからず困惑する光
実優「いいじゃん。一目惚れだもん」
槇「あんた、少し黙ってなさい」
まだ言う実優に苛立つ槇。
光「はは、面白いな」
なんだか、コント見ているとみたいだと
光が笑う。
光の笑い声に二人がばつの悪そうな顔になる。
光「こんな俺みたいな見てくれの奴に一目惚れなんてするの?」
笑いながら実優を見る光。
実優「あの、はい。私じゃ駄目ですか」
槇に怒られながらも変わらずいい続ける実優に本気さを感じる光。
槇・実優「あんた、いい加減に「本気だもん」っ、実優」
自分の声を遮ってまで言う実優に言葉をなくす槇。
しばらく沈黙が続き、
光「良いよ、でもお互いまだ、知らないから友達からで良ければ。俺はいつも本読むか勉強するしか能がないから普通の付き合うってよくわからないけど。それでもいいなら」
実優「ほわわ、ほんとですか!私でいきんですか?」
驚きながらも嬉しそうにする実優。
槇「あの、ホントにいいんですか?」
実優が、本気なのはわかったが光の事を知らないので、いまいち信用できず、疑う槇。
光「あぁ。最初、俺みたいな奴にそんな事いって来る子なんていないから罰ゲームでもさせられてるのかと思ったけど」
自分の胸のうちを明かす光。
実優「そんなんじゃありません。本気です。」
疑われた事に腹をたてたのか少し頬を膨らまして抗議する実優。
槇「ホントにいいんですね。遊びだったら私が許しません。絶対に」
自分の幼なじみが止まらないのを知った槇は厳しい目でもう一度光るに問い掛ける。
光はそんな槇をしっかり見定め
光「あぁ、わかった。それでいい」
と言った。
実優「あ、あの名前、名前聞いてもいいですか?」
二人の真剣なやり取りなど、全く聞いてない程舞い上がっていた実優は恥ずかしそうに話す。
途端に場の空気が軽くなる。
光「は?」
槇「あ、あんたねぇ。今言うそれ、こっちはあんたの事を心配してぇ、」
実優の背後に周り首を絞める槇。
実優「ま、槇ちゃん、ごめ、ごめんぅ」
首を絞められながらも取り敢えず謝る実優。
名前も知らずに告白したのかと呆気にとらわれていた光だが、
二人のやり取りを見ていて笑ってしまう。
光「ハハハ、ホントに仲いいね。」
光に、笑われた二人は恥ずかしさに赤くなる。
少しして
光「鳴海、鳴海光ナルミヒカルだ、宜しく」と
実優に、手を差し出す。
実優「二ノ宮実優ニノミヤミウです。よ、よろしくお願いしますっ」と
おずおずと光の手を握った。
槇は呆れながらもこの二人なら上手く行くわと感じた。
マスターのコーヒー豆を引く音が静かに
店内に響き渡り、夕日が優しく落ちていく。
優しい時間が始まった。
おしまい。
後日談
光は返してもらった傘が違ってる事に直ぐに気づき、実優に伝えると、父親の傘だった事でまたドジを踏んだと落ち込み、槇は呆れ、その二人を見ながら光はこれから楽しくなりそうだと笑った。
因みに光るの住んでるマンションは実優の家から五分も離れておらず、皆で驚き、笑いあった。