忘年会が続いてますね…。極力お断りする事にしてるのですが、断れ
ないモノだけでも結構大変ですね…。
今日も先ほどまで、取引先の社長と顧問税理士と一緒に飲んでました。
美味しいお酒をたくさん頂きましたよ。
12月に入り、流石に寒さも本番ですね。外に出ると息も白い。
この刺さるような寒さ、実は意外に好きなんですよね…。
そして、今日の話は、こんな風に寒い中で出会った老人の話です。
何年くらい前か忘れましたが、友人たちと忘年会をした日の話です。
安い居酒屋で鍋を食った後に、友人がよく行くというスナックへ行き、
その後、深夜まで開いている居酒屋へ行きました。
電車が無くなったので仕方ないのですが…。
その頃には10人近くいた友人も3人ほどになってました。
居酒屋に入ってももう食えもせず、飲めもせずで(笑)
1時間ほどで外に出たかと思います。
神戸の街はその日もキンキンに冷え切ってましたが、私たちも若かった
のですね~。メリケンパークという公園まで行こうという事になりました。
しかしあまりの寒さで、途中元町に24時間営業の喫茶店があり、そこに
入る事にしました。
朝まで、その店にいようという事になりました。
半分寝てしまっている様な3人。
それぞれに飲み物を頼んで席に座ってました。
まだ、時間は3時過ぎ。始発までは2時間以上はありました。
他愛もない話をしながら時間を過ごしていました。
すると一人の老人が1人で入って来ました。
その老人はコーヒーを持って隣の席へ。
店の中はそんなに客がいる訳ではないのですが、喫煙席は結構人が
いた様に思います。
そして私たちの横でコーヒーをすするように飲んでました。
私の位置からはその老人がよく見えました。
その老人は右手の親指と人差し指の間に大きな瘤のようなモノがあり、
カップが持ち辛そうにしていました。
なんだろうか…。なにか仕事で出来たタコのようなモノなのかな…。
私はそう思いました。
老人はポケットからタバコを出して、テーブルに置きました。そして今度
はライターを探してます。
私のテーブルにはお店のマッチが置いてありました。
そのマッチを私は老人に渡しました。
「どうぞ。」
「ありがとう…。」
老人はそういうと瘤のある右手でそのマッチを受け取りました。
老人はそのマッチでタバコに火をつけました。
タバコを口に運ぶためにその老人の手にある瘤が気になります。
「おい…あのじいさんの手の瘤でっかいな…。」
友人もそれに気がつき、小声でそう言います。
「ホンマやな…。」
「何か職業柄出来たタコじゃないかと思うんやけどな…。」
私は友人にそう言いました。
「聞いてみるか。」
「やめとけよ。」
そんな話を私たちは小声で繰り返します。
「これはな…。」
老人は私たちの方を向いて、ニコっと笑いながら右手の瘤を見せました。
その瞬間私たちはその老人の瘤に釘付けでした…。
ちゃんと瘤の全貌を見たのですが、その瘤は星型の様に見えました…。
しかし、老人は
「ほら、人のカタチに見えるだろ…。」
そう言って手を私たちのテーブルの方へ伸ばして来ました。
確かに、星型ですから、見ようによっては人型にも見えるのです。
「この瘤はな…。もう50年近くなるかな…。」
老人は手を引っ込めてコーヒーを飲みながら言います。
正直、私たちだけでなく、近くにいた客はみんな見ていたのではないか
と思います。
「まだ戦時中やったな…。」
老人は語り出しました。少しかすれた声で、聞き辛い声でした。
「当時は戦時中で食うモノもなくてな、私は友人と一緒にいろんな事をし
て食ってたんよ。親は戦争で死んで、母親は出稼ぎに行っとった。」
私たちはその老人の声に耳を傾けて、無言でした。
「ある日な、友人が墓を掘って、棺桶の中から小銭だのなんだのを盗も
うと言いだしてな…。それが金持ちの棺桶には結構、銭が入っててな。」
老人は墓を掘り返した話をします。
墓を掘り返す…。小説やドラマでは見た事があった。しかし本当にそん
な事をやった人の話を初めて聞いた。
当時はもちろん土葬である。埋めてすぐであればそう遺体の傷みも少
ないのだろうが…。
「金歯なんかも取った事があったな…。」
老人はコーヒーを飲みほしたようだった。
「俺、おごりますよ…。」
友人がコーヒーを頼みに行った。そしてすぐにコーヒーを持って帰って
きた。
老人はうれしそうに礼を言って、そのコーヒーにたっぷりと砂糖とミルク
を入れ飲んでいた。
「おかげで、戦時中でも私たちは結構金を持ってた。食うのにも困らん
かったな…。」
老人は少し誇らしげだったような気がする。
「何百も墓を掘ってはいろんなモノを盗んだ…。」
「けどな…墓を掘った友達全員の同じ場所にあざが出来ている事にあ
る日気が付いた。それがコレだよ…。しかも人型のあざ…。」
老人はそういうとまた手を見せる。
「そのあざがいつの間にか腫れモノのようになって、こんな瘤になった
…。」
私たちは声も出なかった…。ただその老人の話を聞いてました。
老人は関西弁ではなく、標準語に近い言葉だったような気がします。
「その時一緒だった友人たちはみんな死んだ。残ったのは私だけだ。」
「みんな死ぬまで手に瘤を持ってた…。」
「病院とかで見てもらったんですか…。」
友人の一人が聞いた。
「何度も見てもらったよ。切った事もあったけど、そのうちまた出てくる。
罰が当たったんだろうね…。」
老人はそういうとまたニッコリ笑った。
「私は一生、この瘤がある限り、自分のやった事を忘れる事は出来な
い。多分自分たちのやった事を一生忘れるな…という事なんだろうな。」
私は言葉がなかった・・・。
その老人のやった事、それは良い事ではない。しかし、戦時中。どんな
事をしても食って行かなければいけないという時代だったのだろうと思う
と、なんとも言えない感覚だった…。
老人は何本かタバコを吸って、2杯目のコーヒーを飲みほした。
「コーヒーごちそうさま。」
そう言うと老人は立ちあがった。終始年季の入ったコートを着たままだ
った…。
「今の話。信じるも信じないもお兄ちゃんたちの自由だよ…。つきあって
くれてありがとう…。」
そういうと老人は店を出て行った。
老人が去ったあと、私たちは正気に戻るまで時間がかかった…。
「ホンマやろか…。さっきの話。」
友人の一人はどうも信じ切れなかったようだった。
「でもあの瘤見たらな…。」
「お前どう思う。」
友人は私に聞いてくる。
私は本当の話だと思ってた。今でも思ってる。
老人に何かの呪いの様なモノがあるのかどうかなんて、私にはまったく
わからない。
しかし人型をした瘤。何度切ってもまた出てくるという…。
そして、何よりも老人に生気が感じられなかったのが気になった。
死ぬのを待っているような…。そんな気がした…。
その日、始発で帰った気がする。
仕事納めの日。
私は会社を出て歩いていた。そして偶然、自動販売機で缶コーヒーを買
うあの老人を見た。
その瘤はその日も老人の右手にあった…。
まだあの老人はどこかで生きているのだろうか…。
今も戒めの瘤を手にしたまま…。
TODAY'S BGM 「PUZZLE」 森口博子