六甲山。神戸では六甲山から見る夜景がきれいだと言われるほど有名な観光
スポットである。しかし、この六甲山はいわゆる「走り屋」と呼ばれる人たちのプ
レイフィールドでもあるのだ。
神戸に住む人なら一度は六甲山へ登った事はあるのではないかと思います。
この六甲山。多くの霊的な話が存在します。
たとえばすごいスピードで車を追い抜いていく老婆の話。この話は全国各地の
いろいろな所にあるようですが。他にも首の無い武士が刀を持って追いかけて
くる話や、急カーブに立つ女性の話など。
ほとんどがフィクションなのでしょうけど…。
今日はその六甲山での本当に体験したお話です。
若かりし日のある日、一人の友人が車を買ったので、見せに行くからと電話をし
てきた。私は夕食を食べた後に風呂に入りのんびりと過ごしていた。その時間に
この電話…正直、迷惑な話である。
しかし、少し遠いところから来ると言う友人からの電話だったので、仕方なく出る
事にした。
待ち合わせの時間に爆音を響かせながらその友人は、もう一人の友人を乗せて
私の家の前までやってきた。
まさに「走り屋」と言われる人の車。私も車は好きなのだが、残念ながらこの手の
車には一切興味がない。
一通り見て、適当に帰ろうとしていた時に、
「せっかくだから六甲山行こうか?」
とその友人が言いだした。
勘弁してくれ…。
私は内心そう思いながら、断る事が出来ず、そのまま拉致された。
彼は裏六甲と呼ばれる神戸市北区から入る道を走ると言う。いくつか走る道はある
様なのだが、私にはわからない。
サスペンションをガチガチに固めて普通に走ってても気分が悪くなる車。とりあえず
前を走る車を見つけてはあおるように走り出す友人。
正直勘弁して欲しい走り…。
私は我慢できなくなり、途中で下してもらう事にした。
「大丈夫か?こんな暗い所で一人で下りるなんて…。」
友人たちは私を心配する。
私はそれでも下りたかった。下りてガードレールの外側に吐いていた。
「大丈夫やから…この変におるから、帰りに拾ってーや。」
そう言うと近くにあったバス停のベンチにへたり込んだ…。
友人たちは、そのまままた走り出した。
私はその時初めて周囲を見渡した。真っ暗な民家が2軒ほど、バス停のベンチ、自動
販売機ポツンと光る公衆電話。
外灯が一つ…。
あり得ない場所で下りたな…。
私はそう思いながらタバコに火をつけて自販機で炭酸飲料を買った。
ベンチに戻り、炭酸飲料でうがいをしながら、タバコを吸った。
もう、六甲山はご免だ。
本気でそう思った…。
妙に静かな場所。
たまに友人と同じように爆音を鳴らしながら走って行く車がいるが、本当に稀だった。
空き缶をゴミ箱に捨てて、ベンチに戻ろうとした時に、下の方からバッグを振り回す様
にして若い女性が歩いてくるのが見えた。
私はぞっとした。もう深夜の2時過ぎ。それも私たちが車で走ってきた道を若い女性が
一人で歩いて登ってくるなんてありえないのだ…。
私はその女性をじっと見ていた。
もしかしたら、近くで車を下りて歩いてきたのかもしれない。このあたりの民家の住民な
のかもしれない…。
そんな事を考えながら、私は彼女を見ていた。
すると彼女も私に気がついたのか、少し小走りに私の方へ向かってきた。
「すみませんー。」
彼女はそう言うと手を振った。
良かった…。人間だ…。私はそう思い返事をした。
「はい。なんですか。」
彼女は息を切らしながら、私のそばまで来る。深夜の2時過ぎだが、暑い日だった。
額に汗を浮かべながら彼女は肩で息をしていた。
「今、何時ですか?」
彼女はそう聞いてくる。
「2時過ぎですね。」
私は時計を見せて彼女にそう言った。
「時計が壊れちゃって・・・。」
彼女も腕時計を私に見せるのだが、ガラスが割れていて、文字盤も見れない状態だ
った。
「ひどい壊れ方ですね。この辺の人ですか?」
「もう少し先なんです。」
彼女はそう言うと自販機へ行き、飲み物を買っていた。
午後の紅茶ミルクティ。当時「ゴミティ」と言われるほど流行していた。
彼女はその缶ジュースを開けるでもなく、手に持って遊んでいた。
「では、帰ります。」
彼女はそう言うと私に手を振った。私も軽く手を振り、彼女を見送った。本当は彼女を
送って行くのが良いのだろうが、そろそろ友人たちが下りてくる可能性がある。
それにみんなが通る道だ。友人たちが下りてきたら彼女にも気がつくだろう。
それから車で彼女を送れば良い。そう思いながら私は暗がりに見えなくなっていく彼女
見送った。
案の定、友人の車は5分程で帰ってきた。
友人たちも自販機でジュースを買いながら、どんな車がどうのこうのと話を始めた。
「ところでさ、さっき女とすれ違わなかった?」
私は友人に聞いた。
「こんな時間にこんな道歩いている女なんておるわけないやろ。」
「いや、この先に住んでるって言ってたで…。」
私は彼女の消えた方角を指差して言った。その方向は間違いなく、彼らが下りてきた
道だった。
「この先に民家なんてもうないで…。」
私は友人のその言葉に背筋が冷たくなった。
彼女は何だったんだろう…。
「それ幽霊ちゃうか?」
友人はそういう。私はその時に思い出した。
彼女のぐちゃぐちゃに壊れた腕時計…。普通に壊れてあんなにまでなる事はない。
もしかしたら、そうなのかもしれない…。
「でもその自販機で午後の紅茶を買って歩いて行ったんやけどな…。」
私があまりにも納得しないので、ゆっくり走るからという約束で、もう一度山頂まで彼
が登ろうと言い出す。
私もそれに了解し、今度は助手席に座ってゆっくりと登り始めた。
確かに民家なんてその先にはなさそうだった。
その時、私はふとあるものを見つけた。
ガードレールのポールのところに花束が供えてあったのだ…。
「停めてくれ…。」
私はそう言って、友人の車を下りた。
その花束の横には、
午後の紅茶ミルクティが置いてあったのだ。しかも、まだ冷たい。
彼女はここまで来たんだろうと思った。しかし彼女の姿は周囲に無い。さらに上に登っ
たのだろうか…。もちろん今まで来た道に脇にそれるような道もないのだ…。
「この上に民家とかないの?」
私は友人に聞いた。
「ないと思うで…。とりあえず先走ってみようや…。」
友人がそう言うので、私は再び車に乗り込む。
ゆっくりと六甲山を登って行く。しかし、彼女らしい姿は見えない…。
車の1台もすれ違わないのだ…。
結局ギャラリーと呼ばれる場所まで行く。もう3時近い時間。そこにいる人影の数人し
か無かった。そこにも彼女の姿はない。
一体、彼女は何だったんだろう…。いまだに謎のままである。
帰り道に友人たちに詳しくその話をした。
友人たちは
絶対幽霊だ!
と言う。
しかし、そんな気配は私には感じられなかったのだ…。
後日、その友人が電話してきた。
あのガードレールの花束の場所で亡くなった人を走り屋仲間に聞いたらしい。
その場所で亡くなったのは、彼女を乗せて走りに来ていたシルビアに乗った男だった
らしい。そこで事故に遭い、男は即死。彼女は数日後に病院で亡くなったと言う。
そして…。
彼女が亡くなった日。
私が彼女を見たその日だったと言う…。
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