こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子。また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

公開された時に、絶対見たい!と思っていながら、不思議と機会がないままに見逃してしまった映画…というのが、私には結構ある…

 

 

実は、この「Three Thousand Years of Longing」もその1つだった…何と言ってもまず主演は私が敬愛してやまないTilda Swintonと、「Sexiest Man(もっともセクシーな男)」の称号を持つIdris Elbaこれは見るしかないではないか?!…それにこのお2人ならアワードシーズンにも話題になるだろう…と思ったのに、意外にもアメリカではほとんど話題にならず、SAG Awardsでさえスルー?!…また最近は劇場公開の期間も短く、うっかりしているとあっという間に劇場から消えてしまうのだ…

 

しかし、そうして劇場から消えた映画は、あっという間にStreamingの場に登場する…この映画をAmazon Prime Videoで見つけた時は、狂喜乱舞した…実は、その時全く別な作品を見るつもりだったのだが、あっさりこっちに鞍替えした…

 

(ここから先はネタバレ警告…)

 

Narratologist(物語学者)のAlithea(Tilda Swinton)は、学会に出席する為にイスタンブールに行き、そこのアンティーク屋でちょっと変わった形のガラスのボトルを買う…翌朝ホテルのバスルームでそのボトルを洗っていると、蓋が外れ、そこからランプの精ならぬ、ボトルの精ジーン(Idris Elba)が現れる…そしてそのジーンはお約束通り「3つの願い」を叶える…というのだが、実はこの「願い」にはいくつか規制がある…例えば「不老不死」とか「神になる」なんていうのは無効で、また「願いを3つ以上に増やす」というのもNGである…さらにその3つともその人が生きている間に完遂せねばならない…そしてそれらが完遂された時、そのジーンは晴れて自由になれる…というのだが、実は彼は過去に何度も「最後の1個」の願いを叶える前に本人が死んでしまったりして、再びボトルに閉じ込められる…という事を繰り返してきた…

 

さらにその「願い」は「心から願ったもの」でなければならず、Alitheaは今の自分の人生に満足しているので、差し当たってそんな願いなどない…と言う…また彼女は物語学者なので、そうした過去の「事例」から、うっかり変なお願いをしたがためにとんでもない不幸に巻き込まれる…という事は避けたいし、そもそも「願いを叶える」なんて言うのが怪しい?!…というリアリスト…そこで、そのジーンは、なんとか彼女に願いを抱かせるべく、彼女が興味を抱かずにいられないもの、すなわち自分の物語を語る

 

その映画の半分は、そのジーンの語る物語…その物語の様子は再現ドラマのように実際に示され、その部分は実はツッコミどころ満載なのだが、それを語るIdris Elbaの「物語力」が見事である…それらの物語には、必ず彼も含まれるが、彼の視点から語られるそれらの物語が、これまた実に切ない…このジーン君、実に純な奴なのだが、最初は何とか「願い」を言わせようという駆け引きがバレバレ…とはいえ、さすがSexiest Manの魅力全開で、それでも思わず騙されそうになるのだが、その内その自分の物語を語る事が過去の自分と向き合う事に変わっていく…そして、それを聞いている内に、次第にそれらの物語から影響を受けていくAlitheaの変化が、Tilda Swintonは抑えた演技なのにはっきりわかる…お互いの物語を共有する事によって、その2人の間に流れる共感と友情が、これまた実にリアルなのだが、やがてAlitheaはそれを「愛情」にしたいと「願う」…

 

こういう現実にはあり得ないキャラクターが出てくる話は、その「嘘」が仄見えると途端に安っぽくなり、ぶち壊しになってしまうのだが、単にジーンの物語のスパンが3000年の長さである…という事を除けば、これはお互い全く違う環境で育った2人が初めて会い、それぞれの物語によってお互いを知り、関係を築いていく話…という点で、実にリアルで説得力があり、名優のお2人さんの本領発揮である…

 

実は、脚本はさほどいいとは思えず、映画そのものの出来も微妙なのだが、それでも最後まで観客を惹きつけたのは、この主演のお2人さんの功績であるどんな設定でも、リアルな説得力を生み出すいい演技のお手本…という意味では、一見の価値あり…と言えると思う。

 

 

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