こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

ドキュメンタリー映画…というと、カメラマンがその取材の対象にずっと張り付いていて、24時間カメラを回している…と思っている人がいたりするが、勿論そんなわけはない

ひたすら撮り続けていれば、いつか何か面白い映像が偶然撮れる…というような甘いものではないし、そもそもドキュメンタリー映画のプロダクションは大抵低予算だったりするので、そんな風に偶然を期待してカメラを回し続ける…なんていうお金の掛かるやり方は無理だろう…

 

しかしながら、だからと言って「ドキュメンタリー映画はヤラセである」などと言うつもりはない…フィルムメーカーの方に、ある程度「こう言う映像が欲しい」と言うプランがある事は確かだろうが、それは例えば、「本人の意見が聞きたいからインタビューしたい」という様なもので、その結果として出てくるものまではプランしない…つまり「こういう事を言ってほしい」とインタビューで話される内容までコントロールしたりはしない…もしあらかじめインタビューする相手のセリフを決めておくような場合は、それこそ「ヤラセ」で、それはもはやドキュメンタリーではなくフィクションの範疇である…そういう意味では、実はそこにははっきりとした境界線が引かれているのが普通である…が、ドキュメンタリーには、そう言うグレイなエリアもやはり存在する…

 

少し前に私がやった「ドキュメンタリー」の仕事も、そういうものだった…もっとも私自身が、ドキュメンタリーの取材の対象になったわけではない…その取材対象の主要人物の人生を紹介する上で、その人の生活や仕事中の様子の映像が欲しい…という事だったらしいが、その人の職業は演出家だったので、その仕事というのは、当然プロダクションの演出である…しかし、これは俳優と似たようなもので、そんなに都合よくドキュメンタリーを作っている時に演出の仕事があるとは限らないし、その仕事中にカメラを入れられるとも限らない…というのも、ユニオンのプロダクションではリハーサル中の様子は公開できない場合もあるからだ…

その演出家も、ドキュメンタリー撮影中はちょうどツアーが終わったばかり…もっとも、そういう時期だから取材に応じられたのだろうが、その「仕事」の様子を撮るには、その「仕事」そのものを作らねばならない?!…そこで白羽の矢が立ったのが、半年ほど前に、彼女の演出でやったリーディングのプロダクション過去記事参照)…つまり、そのプロダクションが、フルプロダクションになった…という前提のもとで、リハーサルしている様子の映像を撮ろう…という事になった…もっとも、その作品を彼女が前にも演出したのは事実だし、もしフルプロダクションになったら、多分彼女が演出するであろう事は疑いない…だから決して全くの嘘やヤラセではない…しかし「フルプロダクションになった」というのはフィクションで、もしドキュメンタリーの撮影がなければ、このリハーサルもなかったわけで、そういう意味では、グレイなエリアに相当するかもしれない…

 

かくして、その前のリーディングでメインキャラの1人を演じた私にもお声が掛かった…まぁ、私もその頃ちょうど暇だったし、その作品も役もすごく気に入っていたので、迷う事なく出演OKの返事を出す…撮影はマンハッタンにあるリハーサルルームで行われた…

 

 

そのリハーサルルームは、コロナ禍で経営難に陥り、現在はミュージカルの学校の所有となっているようである…しかし、その中の内装などはほとんどそのままニューヨークのシアターのオーディションの多くがこうしたリハーサルルームで行われていたので、その部屋に一歩入った途端、そこでの様々な思い出も蘇ってくる

 

 

またそのグリーンルーム(俳優達の控室)は、さながら同窓会状態…前回のリーディングに出演した人達のほとんどが、また関わっていた…

間も無く、撮影場所のセッティングが終わったので、最初のシーンに出演者達が呼ばれた…そのシーンは私のメインのシーンでもあるので、早速移動する…

 

それにしても、ちょっと妙な感じではあった…やっていることはシアターのリハーサルなので、当然そこで我々に求められるのは、シアターの演技である…しかし、実際それは映像の為のシーンで、ハンディカメラを持ったカメラマンが絶えずウロウロしている

リハーサルは、立ち稽古の初日…くらいの段階を想定しているようで、皆台本を持ったまま、演出家が「ここで入場しろ」「左へ退場」というような指示に従って、俳優達も動き回るのだが、時々夢中になって撮影しているカメラさんとぶつかったりする?!…その時、「あ、これは映像の仕事だったのだ…」とハッと気がつく…という事の繰り返しだった…

 

しかし、もし映像の仕事だったら、普通は最初からカメラがどう動くか決まっているので、カメラの後ろにいる場合は、絶対にフレーム外だから映らない…と、ちょっとホッとする…しかし、このドキュメンタリーの場合は、いつカメラがこっちを向くか分からないので、一瞬たりとも気が抜けない?!…のみならず、いきなりカメラにこちらを向かれても、パニックしてカメラのレンズを直視したりしてはならない…という、シアターのリハーサル中なら、まず心配の必要のない事にも気を回さねばならない?!

 

また、シーンは白熱してきても、全体の動きが少なくなったところで、あとはカットし、次のシーンへ…2つ目のシーンには私は出ていないの、グリーンルームへ戻る…

グリーンルームには、朝ごはん代わりに、プロダクションからペストリーの差し入れがあったので、早速大好物のアーモンドクロワッサンとコーヒーを頂く…

 

 

テーブルがなかったので、ピアノの上に置いてしまったが、このあとすぐにどけて、パンくずひとつピアノの上には落とさない様気をつけた…

 

そして最後の1時間には全員が出演する最終シーン…この頃にはもうカメラの存在はほとんど気にならなくなる…そして、芸達者な他の俳優さん達とのやりとりの中で、確実にその場で何かが起こる…これぞシアターのリハーサルの醍醐味

 

そして時間が来たのでリハーサル…厳密には撮影終了…この日3時間ぐらいリハーサルシーンを撮り続けたが、実はその中でも実際に使うのは、数分だったりしないか?!

それでも、この作品のシーンをまた演じられて、本当に嬉しかった

 

ちなみに、これはドキュメンタリーへの出演なので、ノーギャラである…ギャラを貰う仕事というのは、監督の要請に従ってこちらは演技する…という、完全にフィクションの場合だけ…今回は、一応名目は、「たまたまリハーサルやっている所に、たまたまカメラも入りました~!」というものなのだ…

それでも朝はペストリーの朝ごはん、終わった後はサンドイッチのランチ…と、食事は出してくれる…

 

 

不思議なことに、そういう状況でも、十分楽しかったので一向に不満も出てこない…こういう時が、本当に「好きなことをやっているのだ」と実感できる瞬間なのかもしれない…こうなると、今度は一刻も早くこの作品がフルプロダクション公演となり、本当のリハーサルができる日が楽しみだが、そうなると正真正銘の仕事になるから、ここまで楽しくないかもしれない…

ドキュメンタリーの裏側の、嘘と本当のグレイなエリアにいるからこそ…純粋に楽しめたのかもしれない…

 

 

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