こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

オーディションの形態の1つに「Open Call」というものがある…これは、エージェントを通さなくても、誰でも受けられるオーディションの事で、私もノンユニオンの時には随分これのお世話になった…

 

通常のオーディションは、まずエージェントがキャスティング・ディレクターに写真やレジュメを送り、その書類選考を通った人だけが、オーディションを受ける事ができる…そうなると、エージェントを持たない人や、キャスティング・ディレクターに「こいつはあかん」と思い込まれたりする場合は、オーディションさえも受けられない…という事もある…

その点オープンコールは、エージェントを通さなくてもいいので、エージェントを持たない人でも受けられるし、また実質的には一次の書類選考もぶっちできる…つまり、キャスティング・ディレクターの一次選考を待たずして、オーディション・ビデオを送る事ができるのだ…

もっとも、その分その数や競争率は半端ではなくなるし、そういうオープンコールは、大抵はノンユニオン、もしくは低予算の映画で、あるいは例えば「本物の手足を切断されている人」のような見つけるのが難しいカテゴリー、さらに募集するのはエキストラのみという場合がほとんどである…また、その数が多いので、キャスティング・ディレクターが本当に全てのサブミッションに目を通している…という保証もない

 

それでも、キャリアの初期の段階にいる俳優達にとっては、このオープンコールは有効である…さっきも言ったように、私も最初はほとんどオープンコールによって、レジュメのクレジットを増やしてきたのだ…しかし、ユニオンのメジャーなプロダクションで、エキストラ以外にオープンコールを行う事は、極めて稀である

 

それは確かに極めて稀であるが、決してゼロではない…実は少し前に、そうしたオープンコールにチャレンジしてみた…

それは友人が親切にも教えてくれたのだが、何でも日本語が話せる日本人を探しているという話で、しかもメジャー映画のプロダクションではないか?!…しかもその友人はエージェントからすでにオーディションに送られている…というから、これは偽プロダクションではない!…しかしそれなら、何でうちのエージェントは何も言うてこんのや?!…と思ったが、考えてみたらうちのエージェントにはかの「Shogun」のオーディションさえスルーされているのだ…このキャスティングだって、見逃している可能性はある

 

そこで、まずエージェントに「この作品の事、知ってたら私もサブミットして!」とメールを送ってみたが、なしのつぶて…と言う事は、私に適した役がなかったのだろうか…

それなら、オープンコールやったろうやんか!…と、ちょうどその頃時間ができたので、やる気になった…

 

そのオーディションの内容は、シーンではなく、インタビュー?!…いくつかのインタビューに答える形式で、要するにその人の人柄を見るものなのだろう…つまり、ここでは日本語の話せる「俳優」を探している…と言うより、とにかく日本語が話せる…つまり本物の日本人であればいい…という事らしい…そうなると、そこでキャストされるのはおそらくエキストラか、せいぜいチョイ役程度だろう…が、それでも構わない…チョイ役でもセリフがあればそれはユニオンのプリンシパルなのだ!

 

そのくせ、そのセルフテープには、どういうわけか、バックドロップなどの「プロの俳優のセッティングを使わないように」としっかり明記してある?!…つまり「アクターではない」「リアルな」日本人を探している…という事らしい?!…この手の「アクター」への偏見は、決して珍しいものではない過去記事参照)のだが、なぜアクターはリアルではないと決めつけるのだ?!…アクターだろうが何だろうが、要するに「リアルに見えればいい」という事ではないか?!…また素人の方が、リアルに自分が出せる…と思うのは、これまた大きな誤解である…そういう人が決していないわけではないが、おそらくそういう人はプロの俳優ではないだけで、何らかの人前に立つ仕事をしている場合が多い…全くそういう経験のない人達が、カメラの前で自然に振舞うなど容易なことではないのだ…それでも、ディレクターがそうしろというのなら、できる限りアクター色を消すしかあるまい…そのビデオも「自宅の居間で撮影してもいい」なんていうが、そもそもうちの居間には夫が在宅勤務しているし、何より彩光状態が悪い…そこで、撮影はいつものベッドルームの壁を使い、そこに植木をさりげなく映り込ませる…というような姑息なセッティングを試みる…

 

ちなみにそのインタビューには、英語でも日本語でも、両方でも、どっちでも構わない…と言う結構緩いものだった…しかし、この質問というのが、「最近見た夢か、将来の夢について」とか、「尊敬する人とその理由」とか、「自分にとって最高の日について」とか、結構面倒な質問ばかり…しかも必ず「質問者に質問させる事」とある?!…しかし夫は仕事中なので、このインタビューにつき合わせるわけにはいかず、質問だけ後から別に読んでもらって、編集でその音声だけ挿入することにする…

 

英語で答えるか、日本語で答えるかキャスティング・ディレクターはおそらく英語しかわからないだろう…しかしここで探しているのは「日本語が話せる日本人」なのだ…そこで私は「英語バージョン」「日本語バージョン」の2本のビデオを撮る事にする…

そしてまず英語で答え、別のテイクで同じ質問に日本語で答える…それらを「英語版」「日本語版」の別々のビデオにまとめたが、インストラクションによると、各ビデオは全部で8分以内でなければならないとある?!…慌てて時間をチェックすると、英語版は8分以内に収まっていたが、どういうわけか日本語版は1分以上オーバーしている?!同じ質問に同じ内容を答えたはずなのだが、どうしても日本語の方が長くなってしまうようだ…これは言語の特性もあるかもしれないが、やはり日本語だと気が緩んで、少し余分な事を喋ってしまったり…というのもあるからだろう…仕方がないので、日本語の方は、一部カットしたりして、何とか8分内に収まるようにした…

 

それをいよいよ指定のサイトにアップロード…ところが、先に英語のビデオをアップロードしたら、今度は日本語のビデオが追加でアップロードできない?!…ひょっとしたら2本同時にアップロードしていればできたかも?!…と気づいたのは後になってからで、この時は苦労した日本語のビデオは泣く泣く諦めた…そして、そこに添えられたオーディション・フォームに自分の情報を記入していく…と、その中にカナダの労働許可を持っていますか?」という質問?!…撮影場所はアメリカ、日本、カナダとあり、私は日本とアメリカでは働けるのだが、カナダでは労働許可がないので働けない…さらによくみると、そのキャスティング・ディレクターは、何とカナダのキャスティング・ディレクターではないか?!…つまり、このオープンコールは「カナダ在住の日本人」が対象だったのだ!おそらくアメリカと日本はまた別なキャスティング・ディレクターなのだろう…最初に確認しろよ!…と自分でも突っ込んだが、まさかアメリカ資本の映画だったし、友人もオーディションを受けたというので、そんな可能性は考えてもいなかったのだ…

 

これには本当にがっかりしたが、このビデオ撮影には半日以上費やしているのだ!…せっかく撮ったから見るだけ見てぇな!…とヤケクソでそのままサブミットした…

 

エージェントから返事が来なかったのは、このせいだったかもしれない…と気づいたのは、これまた後になってからの事…もちろん、キャスティング・ディレクターからの連絡は何もなかった

 

(その2へ続く)

 

 

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