こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

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SAG Awardsには「スタント」のカテゴリーがあり、これは同じくSAGのメンバーであるスタントの人達の仕事を評価したものである…実は私は、普段アクション映画にはあまり興味がないのだが、そう言うわけでその候補作はなるべく見る様にしている…

この映画「Indiana Jones and the Dial Destiny」もそういう理由で観たのだが、これが予想以上に面白かった

 

 

もっとも、私はこのインディ・ジョーンズのシリーズは、過去に一度も劇場でちゃんと見たことがない…なので、もしそのシリーズに詳しい人ならすぐにわかったであろう「内輪ネタ」や「インディ・ギャグ」は、「多分これ、そうなんだろうな…」と何となく察しがつく程度でしかわからなかったが、そのシリーズのファンの人には、そういうのももっと楽しめたかもしれない…

 

このインディ・ジョーンズのシリーズ第5作目の監督は、それまでの4作と違ってSpielbergではなく、彼はもっぱらプロデューサーとしてだけ関わっている…しかし、主演はHarrison Fordが続行!御歳80歳のアクション・ヒーローだが、彼はその年齢を逆手に取り、この荒唐無稽のSFアクション映画に、おそらく若い時にはなかったであろう深味と人間味、そしてユーモアを加えている…これがこの映画の成功の理由の1つだったと思う…つまり「爺いのどこが悪い?!」というある種の開き直りと共に、「爺さんだからこそ出来る事」を積極的に利用する…儒教国家のアジアと違って、若い国家のアメリカでは、実は高齢者への評価は極めて低い…実際、バイデン大統領の再選が危ぶまれるのは、彼の80歳超えの年齢である事への過大な不安…まぁ、対戦者が「あれ」なので、それと同じくらいの悪い所を見つけるのは並大抵ではなく、強いて言えば年齢以外に突っ込むところがない…(もっとも、そういうアレも爺いには代わりはないのだが…)という事なのかもしれないが、人種や性別、年齢による差別はしっかり「ハラスメント」に位置付けられているにも関わらず、依然としてこの「年齢イジリ」が盛んなのは、若さと体力だけで国作りを進めてきた新興国故…というのもあるかもしれない…

 

そういう意味では、このHarrison Fordの「Indiana Jones and the Dial Destiny」の挑戦は、年齢差別への挑戦だった…と言えるかもしれない…

最初の過去のフラッシュバックには、AIによるde-agedと呼ばれる若返り加工がなされているのだが、それ以外の現在(1969年)のインディは、つい先頃引退した考古学教授の爺さんである…仕事から退き、若い世代に幻滅し、これからの余生をどう生きようか…という、この世代の男性の悲哀を滲ませる…婆さん達はそういう歳でも結構それなりに生きがいを見出したりするのだが、そういう点では爺さんは脆い…そこへ昔の同僚の娘が登場することによって、過去の情熱が掻き立てられ、また冒険の旅に出かけるのだが…

 

ここから先はややネタバレ警告

 

「ネタバレ」と言ったが、そこから先のパターンは、おそらく他のシリーズとそう変わらないのではないかと思う…苦難を乗り越えて、必要とされるオブジェクトをゲットし、その謎を解いて、最終的な謎に迫る…そこに悪役が現れて邪魔をしたり、せっかく見つけたものを横取りされたり…そこで追いつ追われつのドキドキハラハラのアクションが繰り広げられて、最後には悪党は滅び、大団円…これはもはや様式美の様なもので、もしこのパターンを踏まなければお客が怒る…某スパイ映画のシリーズのように、最後に主役がいきなり死んでしまっては、たとえその方が遥にドラマチックで泣ける作品になっていても、ファンは納得しないのだ…(過去記事参照)

 

しかし、この第5作目では冒険に出かけるインディ爺さんである…もはや速く走れないし、長距離の徒歩移動も無理絶壁を登る事はできても、途中で少し休まねばならないし、若いもののスピードについていくのは骨が折れる…ただ、救いは相手の悪党も、若い頃に接点があった爺さんなので、爺さん同士で殴り合う…などといった事はしなくて済む…また、自力で走れなくとも、車や馬の力を借りれば、追いつ追われつのアクションも平気…特に彼のカウボーイのイメージに欠かせない乗馬を、一体都市でどうやって?!…と思ったら、ちゃんとやってくれるし、そのアクション・シーンが何ともクリエイティブで心憎い…地下鉄の線路には高圧電流が流れとるん違うんかい?!…なんてことには、この際目をつぶろう

 

実は私は、あまり高速で車をビュンビュン飛ばし、他の車にガンガンぶつかって大破させるようなカーチェイスは苦手である…運転手目線だと車酔いしてしまうし、客観的に見ると、どうしても「あぁ、運転手は即死やなぁ…」とか、「巻き添えを食った通行人の家族は泣くに泣けんよな…」なんて思ってしまうからだ…しかし、この作品ではその辺りはちゃんと配慮されているし、カーチェイスもTuk-Tukと呼ばれるゴルフカートのような観光地にある3輪車…というようなあまりスピードの出過ぎない乗り物で、大型の車では通れないヨーロッパの古い都市の狭い路地を、それでチマチマと疾走したりする…またそういう都市の路地には、ラクダやロバもいたりするのだが、それを轢かないようにちゃんと避けつつ進む…と、ちゃんと動物愛護にも気を遣っている?!…まぁ、Tuk-Tukは前進しかできないはずなのに、リバースギアかい?!…というツッコミはさておき、単にスピードと破壊だけに頼ったアクションではないのにも好感が持てた…

 

また爺さんは、体力的には不利だが、さすが亀の甲より年の功…思わぬところに有力なコネを持ち、あっという間に海中の宝探しまでやってしまうし、発見された古文書だってスラスラ読める…(そもそも彼は考古学者だったのだ!)そして、最終的な謎だってスラスラ解いてしまうのだ!…また若い世代とのギャップを感じつつも、そうした若者に深い理解と共感を示す度量がある…また過去の自分への反省と後悔…そうしたものを背負ってきた年輪の美しさを、Harrison Fordの渋い芝居でじっくり見せる

 

また、その彼を冒険に引っ張り出すきっかけになった若い女性ヘレナを演じるのが、Phoebe Waller-Bridge…彼女は、TVシリーズの「Fleabag」過去記事参照)ではエミー賞3冠受賞したイギリスの俳優さんである…また脚本家としても、その「Fleabag」は勿論、「No Time To Die」「Killing Eve」など、私の大好きな作品を手掛けてもいるマルチタレントである…この彼女が今回俳優としてもまた素晴らしい仕事をしているのだ!真面目で聡明な考古学者の卵…かと思いきや、実は計算高く強かで、一筋縄ではいかない曲者でもある…しかし、情にも厚く「この子ホンマはええ子なんやな…」という繊細さも仄見せる…さらにフィジカルなアクションもこなし、ヒーローの助けを待たない…というか、今回はそのヒーローが爺さんなので、そのヒーローの面倒も何気にちゃんと細やかに見ていたりする強いヒロインである…そう、イギリスはアメリカと違って、敬老精神の国である…

 

そして元ナチスの悪党を演じるMads Mikkelsen…彼はデンマークの俳優さんで、「Another Round」というデンマーク映画で一躍アメリカにも知られる様になったが、アメリカでは何気に悪役が多い?!…今回も、悪党でありながら、どことなくオタクなインテリの繊細さも持つ、人間味あるキャラクターを見事に演じていた…

 

ストーリーが荒唐無稽なところや、科学的な設定にかなり無理があるところ、また、タイムパラドックスを扱っているが為に、途中で登場した小道具のためにラストがあっさり予想できてしまったところ…なんかはこの際武士の情けで目をつぶろう…

 

実はラストに、過去に他の作品にも登場した重要なキャラクターが登場し、実にいいシーンを演じてくれるのだが、他の作品を知らない私には「多分そうなんやろうな…」と推測するしかなかった…でも真のファンなら「あ~っ!あの人や!」と大喜びするかもしれない…まぁ、これはファンの特権というものだろう…

 

最後に、Jones Williamsによる映画音楽が、そういうジャンルの素人の私にもはっきりわかる素晴らしさだった…この音楽のおかげで、ツッコミ満載の設定も全て吹っ飛び、その場面に深い感動をもたらす…彼は今回もまたこの映画音楽でオスカーにノミネートされている…御歳92歳の現役…さすがである…

 

この「Indiana Jones and the Dial Destiny」は、そういった年の功のパワーが凝縮されている…と言えるかもしれない…

 
 
★過去記事★