こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

 NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

前回のお話:

 

 

そしていよいよ初日本番

 

いつも私は開演の1時間前に楽屋入りするそれ以上遅いと時間が足りないのではないか?!…と不安になるし、かといってあまり早すぎるとかえって疲れるからだ…しかしこれは本当に俳優によって異なり、30分前で十分…という人もいれば、2時間前に楽屋入りしたい…という人もいる…

しかし、前夜にプロデューサーから送られてきたメールには、「コールタイムは5時半、出演者は6時25分までに衣装を着け、メイクを済ませておく事」なんて事が書いてある?!…ちなみに、開演は7時である…これには、ちょっと待てや!と言いたくなった…

 

そもそもユニオンの定めたコールタイムは「開演時間の30分前」と決まっているので、この場合はコールタイムは6時半でなければならない6時25分って、それより前やんか?!

それに準備が早ければいいというものでもないのだ…しかも今回は短編集なので、5番目、6番目の作品に出る人なんて、自分の出番の前に1時間ぐらい待ち時間があったりするのだ…おまけにOff-Off Broadwayの劇場の楽屋はメチャクチャ狭い…そんなところに長時間大勢がひしめいているのは、特に昨今は避けたいところ…

 

これはひとえにそのプロデューサーが解っていないだけだったのだが、解っていない人に解らせるのは本当に時間と労力がかかる…さてどうしたものか…と、他の俳優さん達がどうするか聞いてみたら、皆平然とそのメールを無視し、自分のペースで楽屋入りすると言う?!さすが、NYアクター達…そこで私もいつも通り、1時間前に楽屋入りした…

 

衣装に着替えて、猫メイク過去記事参照)をする…新しく買った黒のアイライナーを初めて試すが、幸いなめらかで使いやすく、しかも終演まで化粧崩れもしない!…頬に猫ヒゲを描くときに緊張したが、思い切ってグイッと描くと上手くいった…

 

image

 

いよいよ開場…観客が劇場に入ってくる…そのざわめきを聴きながら、舞台袖から舞台を見る…本番前の一番好きな瞬間である…

 

 

私の最初の出番は、一番最初…実は始まる前に、プロデューサーが携帯の電源をオフにしろとか、非常出口の場所などの開演前のアナウンスをするのだが、中々話好きの人で、それ以外にも色々喋りまくる…その喋っている間に猫が入場…スピーチはまだ続いているがその真前を平気で横切り、露骨に邪魔をする…これもZoom会議などで、いきなり飼い猫が乱入してくるあれのパロディである…というわけで、ここまでは打ち合わせ通り…ところが、このプロデューサーが中々出て行こうとしないので、私のエリザベスも「遊んで~」とを足元に身体を擦り付けるふりをしながら、実はこのプロデューサーをぐいぐい隅っこに押しやり、ついに舞台から追い出してしまう?!…この時客席から大きな拍手が起こった…おそらくお客さんも「こいつ話が長い!」と思っていたのだろうか…その拍手に答えて「Hello everyone! I’m Elizabeth, New York City Cat!(こんにちは。私はエリザベス、ニューヨークシティ・キャットよ!)」と自己紹介して、一番最初の詩を始める…この詩は、予想通りの暖かい笑いで迎えられた…

 

2つ目の詩は中程で、転換の薄暗いブルーライトの中で登場する…そして舞台に明かりが入るのを待って、喋り始める…という段取りにテクリハではなっていたのだが、待てど暮らせど舞台は暗いまま?!…もっとも、「暗い」と言っても安全のために、完全暗転ではなくブルーライトが点いているので、観客に私に姿は見えているのだが、フロントの明かりがないので顔ははっきり見えない…

芝居をしながらしばらく明かりが入るのを待ったが、はっきり言ってこの詩は短くて、その長さはせいぜい1分未満…なのにもう3分くらい待っているので、これ以上は待てない!…と判断し、暗い中で話し始めた…そうすれば気付いて明かりを点けてくれるかな…と期待したのに、私が喋り始めても暗いまま?!…ちょっと!明かりつけてぇな~!…それがその詩の終わり頃に、いきなりパッと明るくなる?!…なぜ今点ける?!…というか、それまで忘れとったんかい?!…これには本当に頭にきたが、その怒りをそのまま演技に使う…ありがたい事に、2つ目の詩は少し他と経路を変えたシリアスなドラマだったので、これもありかな…と強引に思う事にして、次の出番の準備に入る…

 

そして問題の3つ目の詩…これも私は転換のブルーライトの間に舞台に出るのだが、私と一緒に舞台に出てくる奴がいる?!…見ると、セットの転換を担当していたクルーではないか?!しかしセットの転換は私の詩の後のはず?!…出るの早過ぎるやろう?!…そこで私は猫のまま彼に飛びかかり、猫パンチを繰り出して彼を舞台の外に押しやり、その時自分の間違いに気がついた彼も、そのまま舞台から逃げ出した

 

ところが一難去ってまた一難?!ようやく一人になって舞台中央の所定の位置についたが、舞台はまだ薄暗いブルーのまま?!…そしてまたもや待てど暮らせど、明かりが点かない?!また忘れとるんか?!もう勘弁してくれ~!…これもしばらく待ったが、埒が明かないので、これまた暗い中で喋り始める…しかし、これはコメディなのだ!早く明かりが点いてくれないか…と祈るような思いで芝居を続けたが、この少し長めの詩も、結局ほとんど暗い中でやる事となり、今回も明かりがついたのは一番最後の台詞の前…あとで聞くと、実はオペレーターは私の明かりを本当に忘れていたらしい…

 

しかし、こういうアクシデントが本番中にも起こるのがライブシアター…それでもShow must go on…舞台は続けなければならないのだ…

3つの詩の内の2つは暗闇で演じる事となった…というのに同情を買ったか、カーテンコールで、お客さんから一番盛大な拍手をもらったのは何と私だった総出演時間は一番短いくせに、一番目立って全てをさらっていく…他の出演者からも終演後に冗談で「Show stealer(本番の盗人)」と言われたりしたが、50過ぎたオバチャンが身体張って猫やっとるんや!これくらいええやんか!…何があっても、この瞬間があるから、やっぱりライブの舞台はやめられない

 

 

★過去記事★