こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。
NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。
先日「忠臣蔵」の公演を見て、赤穂浪士達の討ち入りから、最近アメリカで起こった2つの事件を連想してしまった…というお話をした(過去記事参照)…そしてそれらの事件は「フェイクニュースを信じた人達の暴力事件」というのが共通している…という事は、逆に、忠臣蔵を成り立たせるために、「吉良上野介は悪人だった」という事自体が、実はフェイクニュースだったのではないか?!…という疑問が生じる…
そもそも「忠臣蔵」の事の起こりは、ひょっとしたら、今で言う職場におけるメンタルヘルスの問題に過ぎなかったのかもしれない…
播州赤穂の田舎育ちが、いきなり大都会の、しかも江戸城での超文化的イベントの責任者となる…自分の超苦手な分野だが、失敗は絶対に許されない…というプレッシャーも半端ではなかっただろうし、その都会に対するコンプレックスもあっただろう…しかし頼みの綱のスーパーバイザーには何か馬鹿にされているような気もし、イマイチ相性が悪い…しかも大名というのは、いわば二世セレブのボンボンなので、ややメンタルも弱い…それが、その緊張やプレッシャーに耐えられなくなって、あるきっかけで、いきなりプッツン切れてしまう…その結果がよりによって傷害事件で、しかも被害者は当時の高家筆頭…つまり文化人オブ文化人、いわば東大名誉教授のようなものだったので、これは大事件扱いとなった…
さらに運が悪かったのは、赤穂は塩の製造で儲けている豊かな藩であった事…まぁ、だからこそ勅使の接待なんていう金のかかるイベントを命じられたのだが、江戸時代中期というのは、何とかして藩を取り潰し、そこからどさくさ紛れに利益を得ようとする幕府と、何とかしてそうされまいとする大名達との水面化の争いが耐えず行われていたので、特に豊かな藩は細心の注意が必要なのだが、悲しいかな、メンタルの弱いボンボンにその重要性がわかっていたのかどうか…そして、自分の行動が赤穂藩の侍達全ての人生にどれだけ影響を及ぼすか…と言う事も、果たして考えた事があったかどうか…いや、5万石の大名なら、そのくらい考えとけよ!…と突っ込みたくもなるが…彼がそれをしておかなかったのが、悲劇の始まりだった…
浅野内匠頭の刃傷沙汰は、その本人は速攻で切腹、浅野家断絶…ということは赤穂藩もお取り潰し…という厳しいものとなる…そして取り潰された藩の侍達は、その瞬間から全員クビの無職となる…
取り潰した藩は幕府のものにするのはあまりにも露骨だが、幕府のイエスマンにあげればいいのだから、これは幕府にとっては願ってもないチャンス…それだけに、大名側としては絶対に避けたいシナリオだった…
一方吉良上野介の方は、全くのお咎めなしだった…このことから「喧嘩両成敗にならないなんて不公平だ!」と浅野方は言う…
しかし、もし吉良が単なる被害者だった…とするなら、これは当然ではある…喧嘩両成敗というのは、あくまで喧嘩、つまり双方が対等に戦っている場合で、一方的に切り付けられるというのはAssault(暴行)の被害者なのだ…しかも被害者は高齢者なのだ…比較的若い者が、公共の場で高齢者にいきなり暴力振うって…そりゃあかんやろう?!…おまけにその高齢者の被害者はロイヤルファミリーとも親しい超文化人だったりする…
とはいえ、事件当時は、いきなりお取り潰しになって職を失った赤穂の武士達に、皆同情的だったのではないかと思う…
何よりも、いきなりキャリアも住居も失った侍達は怒りのやり場がない…かといって、彼らの主君の軽率を責めるというのはまずい…それに当人は既に切腹しているのだ…死者には鞭打たないのが大人の常識…となれば、別に責める相手を探さねばならない…そうでないと職を失った武士達の不満を抑えきれなくなるからだ…
そうなると、「主君も悪いけど、それにはよっぽどの理由があったんちゃうか?」と思いたくなるのが人情というものだし、そういうふうに持っていく必要も生じる…そこから「主君は、実は吉良のパワハラによってメンタルをやられたんではないか?」という「吉良パワハラ説」というフェイクニュースが誕生する…もっとも、勿論当時そんな言葉はないが、敢えて今風の言葉に置き換えてみたい…その方が、同じパターンが現在にも存在することがよくわかるからだ…
そして後に「赤穂浪士達が吉良邸に討ち入り、本懐を遂げた」という事件が起こった時、それは大センセーションとなる…そして、そのセンセーショナルな事件は、いち早くドラマ化される…一番有名なのは竹田出雲作の「仮名手本忠臣蔵」だが、その前に近松門左衛門もいち早くこの出来事をネタにしている…この近松という人は、たとえば心中の様な事件が起こった時、いち早く関係者に取材して、そのネタを人形浄瑠璃にドラマ化して上演する…それは、安倍元首相暗殺後の追悼ドキュメンタリー並みの早さで、まだ人々の記憶が新しい内に公開する…しかもそれはエンターテイメント性に富むから当然ヒットし、今で言えばワイドショーの様な役割も果たしていたという…またワイドショーと同じで、これらの作品でも、エンターテイメント性を高めるため、ストーリーやキャラ設定は随分盛られているのだが、受け手はそれを事実と思い込んでしまう…そうして、その歪んだ事実がまた拡散する…こうしてフェイクニュースは造られ、拡散していく…
「どうやら、吉良はパワハラが結構すごくて、浅野はん、やっぱりメンタルやられてはったんたんやって。」
「そういえば、結構セクハラも酷かったってどっかで聞いたわ…しかも、浅野はんの奥さんにもちょっかい出してたんやって!」
「取引先から賄賂も貰ってたり、公金横領もしてたっちゅう噂もあるで!」
「そんな風には見えんかったけど、人は見かけによらへんなぁ…」
…こうして、メディアに作られた「吉良極悪人説」のフェイクニュースは、今度は口コミで拡散し、やがて定着する…
江戸時代に起こったのも、これに近いものがあったのではないか…?(ちなみに関西弁訳なのは、他意はない…)
しかも江戸時代には、メディア統制などないから、フェイクニュースだろうがなんだろうが書いたもの勝ち…政府を批判することだけは厳禁だが、フィクションという大義名分があれば、それが瓦版や黄表紙…という出版メディアによってどんどん拡散する…また当時の日本人の庶民の識字率は世界レベルでもかなり高かったそうである…
さらに「忠臣蔵」ネタは瞬く間に「売れ筋」のモチーフとなり、数々の亜流が登場する…そしてそれがまたヒットし、拡散していく…こうなったら事実かどうかどうかは、もはやどうでも良くなる…フェイクニュースというのは得手してそういうものなのだ…
そして「憎しみ」という人間にとってもっともシンプルかつ根源的なものに裏打ちされたフェイクニュースは、容易に拡散する…それは何もTwitterの登場を待つまでもない…
しかし、もし吉良上野介が実は悪人ではなかったら?!…「忠臣蔵」のドラマは、単なるメンタル弱いボンボンが切れて暴力事件を起こし、そのとばっちりを受けたルーザー達が逆恨みして徒党を組んで個人宅を襲撃し、高齢者を殺害した暴力事件…に成り下がってしまうではないか?!
これがフェイクニュースの作られる理由でもある…
また仇討ちのターゲットが、明らかに自分達より弱い高齢者である…というのも、何か嫌な感じである…また、もしこれが幕府の不公平に対する不満の表明なら、幕府に直接プロテストすればいいではないか?…もちろんそんな事をしたら速攻で打首獄門だが、どの道死を覚悟しての事ではなかったのか?!…もっとも、江戸城の警備は個人宅とは比べ物にならない厳しさで、それこそ返り討ちに遭ってしまう危険が大きい…またもし吉良上野介が、筋肉バキバキのマッチョな壮年男子で、返り討ちに合いそうな強者なら、果たして仇討ちはなされたかどうか…この辺りの卑劣さも、老人や女性を狙って攻撃する、対アジア人へイトクライムを連想してしまう…(過去記事参照)
フェイクニュースを信じ、自分よりも弱い相手を攻撃する…これだけ聞けば思いっきりトランプサポーターだが、その行動パターンの類似は無視できない…そして、逆に、もしトランプサポーター的な同じような事件が日本で起こって、それが「忠臣蔵」と同じ様に見なされたとしたら?!…日本には意外にトランプサポーターが多いだけに、このリスクの方が、私には怖い…
★過去記事★

