こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

NYアクターの生活、オーディション、現場での様子、また独断によるツッコミなどをお届けしています。

 

少し前に、こちらのアニメのScreening(特別試写会)に行く機会があったのだが、これが思いの外大ヒットだったので改めてご紹介したい。



一言で言えば、Sea Beast(海の怪物)を退治する船乗りハンター達のお話…なのだが、その背後に隠されたメッセージは結構深い

 

これは最新のアニメーションの技術を駆使した華麗でリアルな画像で、特に海の中や海面などの水のリアルさと迫力は圧巻…またスピード感溢れる数々のバトルシーンやアクションシーンはまさにアニメーションならでは…と、その美しい画像もさることながら、そこにはオタク心をくすぐってやまない、様々な「仕掛け」がある…これは「パクリ」と言うより、「日本アニメへのオマージュ」と捉えたい…例えば、人物のキャラクターデザインはディズニー風だが、海の怪獣達や可愛いペットキャラクターなどに宮崎アニメ風だし、怪獣同士のバトルなどはもろにゴジラでお馴染みの円谷プロの世界…また、怪獣退治に集まった船乗り達…という状況は、明らかにHerman Melville作の「Moby-Dick(白鯨)」を意識したものである…

 

また中でも特筆したいのは、徹底したキャラクターのDiversity(多様性)…船乗り達の物語…というから、これは男社会、それも白人のオッサンばっかり出てくる話…かと思いきや、まずそのハンター達の人種構成が実に多様…主要キャラが白人だけではなく、黒人や、先住民やインド系も含むアジア人キャラもしっかりいるのだ…もっとも、実は「白鯨」も実は結構人種構成はDiversityに富んでいたので、これはその延長線上なのだろうが、今回のDiversityはさらに性別にも及ぶ…船のクルー達の腕力系のポジションや船長は男性だが、そうではない部門には女性キャラが効果的に配置されているのだ…それも食事や洗濯といった部門ではない…例えば、一等航海士の沈着冷静な初老のキャラクターは、明らかに「白鯨」のスターバックのイメージ…ただしスリムな体型で片足が義足であるのはエイハブ船長のイメージもかぶっているのだが、実はこのキャラは黒人女性である…また二等航海士…これは、例えば船長の「北へ向かえ」という命令を、専門用語に翻訳して各部署に大声で的確な指示を出しクルー達を動かす、撮影で言えば1st ADの役割だが、これはアイリッシュ系のガラッパチなオバチャン…最近は撮影現場にも女性のクルーやADが増えてきたので、これももはや違和感がないこれらの女性達が、これまた無茶苦茶格好いいのだ…ひょっとしたら男社会の現場のマネージャーのポジションで生き生きと働く女性達が出てくる初のアニメではないか?!…さらにマストの天辺で見張りを行うのは、これもアジア系の女性あるいはNon-Binary…これは「男性でも女性でもない」性を示すカテゴリーで、例えば身体は女性だが中身は男性…という場合がそう呼ばれる。

 

そして主役の少女Maisieは黒人の少女で、これがまた本好きで頭が良く、気が強くて自立心に溢れ、しかし優しく正義感に富む子供の純真さと強さを申し分なく持つヒロインだが、少女キャラが主体的に重要な役割を果たすのは、これも宮崎アニメを連想する…

 

そしてさらに、これはNetflixアニメ部門の方針でもあるが、声優も極力同じ人種を使う…つまり、黒人のキャラクターには黒人の、アジア人のキャクターはアジア系の声優が使われている…これは実はかつてはなかった事…かつては、どうせ声だけだから…と人種に関わらず、ほとんど白人の声優ばかりがキャストされていたのだ…

 

この徹底したキャラクターのDiversityというのは、実は結構重要である…というのも、そのアニメを見るのは白人の子供だけではないからだ…有色人種の子供達や女の子達にも、自分達の人生にはこんなロールモデルもある…という事を示すのも、アニメの大切な役割なのである…そしてこれまで示されてきた女性像は、王子様によって救われるのを待つお姫様…あるいは、結婚相手を見つけることが「めでたしめでたし」というラスト…あるいは「優しいお母さん」像…というものが多く、こういう刷り込みばかりを子供達に行うのはいかがなものか?!…という事がようやく言われ始めてきたのだ…

 

 

ここから先はネタバレの危険性あり!

 

このアニメの背景は大航海時代っぽい…しかし、そこでは海の怪獣が時折船を襲う…という空想上の世界はもろ宮崎アニメ風だが、それらの「怪物vs人間」という対立構造に対して、「なぜ共存できないのか?」「そもそもなぜ怪物は人間を襲うようになったのか?」という問いかけが少女によって提示され、それが解決の糸口になる…というのも「ナウシカ」的である…

そこに、それまで自分達に示されてきた「歴史」が実は「嘘」ではないか?…これはメディアによって我々が知らされてきたものが、実は事実ではない可能性…という現実問題が示唆される…そこにはフェイクニュースや、歴史を書き換えて次世代に伝える事の危険性…といった現代の問題とパラレルになっている事が、大人にはすぐピンとくる

怪獣達は人間を憎み、危害を加えるから殺さねばならない。」と単純に信じてハンター達はひたすら怪獣を憎み、追い続ける…が、実はこれは誰かが特定の目的(利権)の為にそういうふうに仕向けたものではないか?!…とMaisieは問う…これは、怪獣を「テロリスト」に置き換えればイラク戦争に突入したブッシュ時代のアメリカ「中国や北朝鮮」に置き換えれば現代の日本…と、現代にもあるあるの問題である…

そしてそれに対してMaiseiは、「これ(憎しみの負の連鎖)は、一刻も早く終わらせねばならない!」と、単身でも怪獣や大きな権力に立ち向かう…その幼い少女のピュアな勇気に、大人達は涙腺崩壊

その少女を、為政者はあくまで弾圧しようとするが、それに「この子の言う事を聞くべきだ!」と言い始めたのが、これまた市井のオバチャン達…それに他の女性達も賛同し、それがやがて国民の声となる…そして王はあくまで権力による弾圧を命令するが、軍の司令官(これはインド系の女性もしくはNon-Binary)は命令に従う代わりに、「私もまずなぜ戦争が起こったのかが知りたい。」と剣を納める…こんな風に女性達の声によって世の中が変わる…と言うのも、これまでのアニメにはあまり見られなかったことである…

 

これだけ多くのバトルシーンがあっても、怪我をする人はいても、誰も死なない…という配慮がなされているので、小さな子供達も十分楽しめる作品である…が、これは実は大人にこそ見てほしい…むしろ大人の方が、これらの隠されたメッセージに気付き、ドキリとさせられるだろう…そして少女のくもりのない目で見た世界を、次世代にきちんと伝えなければならない…という気になる…またこの作品では、大人がきちんと子供達のサポートをする…間違いを認め、大人しかできない事を子供達の代わりにきちんとやり遂げる…この「大人達の役割」も指摘しておきたい。

 

実はこの映画は、今年の7月にすでにNetflixで公開済みなのだが、宣伝が下手だったのか、私はこの映画の存在は全く知らなかった…大人にも子供にも、是非お勧めしたい

 

 

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