こんにちは。ニューヨークで役者やってます、まみきむです。

 

ニューヨークの役者の仕事の1つに、VO(Voice Over)、すなわち声の仕事がある事は、前にも書いたが、アメリカ人向けの英語での声の仕事は勿論のこと、アメリカ企業の日本支社向けの、研修ビデオ等の日本語での声の仕事も重要である。特に普段さんざん英語で苦労している身には、日本語だと本当に楽なので「アメリカ人連中はいつもこんなに楽しとんのか?!」と、その普段の条件の不公平さにかなりむかついたりもする…

 

ある時、以前VOの仕事をした会社の紹介で、とある大企業のVOプロジェクトのオーディションを受けた。ところが、その時に送られて来たメールには、オーディションのSidesと共に、電話番号が添えられ、「〇時にここへ電話して、ボイスメール(留守電)に録音するように」とある。

これは、ボイスメール・オーディションで、最近は少なくなったが、以前はVOのオーディションの手段として時々行われた。実は私は、これが大嫌いである。ただでさえ、ボイスメールにメッセージを残す時というのは、何気にやけに緊張するから苦手なのに、今回はそれがオーディションなのだ。つまりチャンスは1回、もしトチったら、それはそのまま録音され、私のオーディションとして残るので、嫌でもプレッシャーは高まる…しかもボイスメールによっては時間制限があり、その制限時間を過ぎるといきなり容赦なく切れる…つまり、下手をするとオーディションの途中でいきなりしり切れトンボ…という間抜けな事に…おまけにボイスメールの音質はすごく悪い…あの酷い音質でこちらの声も評価されるなんて、あんまりだ!

…しかし、それがリクエストとなれば、やるしかない。

 

そこでまず、自分の言うべき事を台詞のように全て書き出し、Sidesと共に、そのまま読んでボイスメールに録音する事にした。制限時間については、神のみぞ知る…だが、少なくとも台本があれば、普通のオーディションと同じに感じられるかも…と思ったのだ。

ところが、いざ電話がつながると心臓はバクバク、録音開始の「ピーッ」という発信音が鳴る頃には、心拍数は倍に、血圧も急上昇しているような気がする…普通のオーディションでここまで緊張する事など滅多にないのに、このボイスメールという設定に、嫌でも緊張が高まるのだ。

それでもSidesを読み始める頃には、ようやく落ち着きを取り戻し、何とかトチる事もなく、また幸運にも制限時間内に録音を済ませる事ができた。

 

数日後、そのオーディションに受かったという連絡が、そのオフィスからあり、録音日が告げられた。またその連絡は、受かった3人全員へのグループメールだったので、その他のメールアドレスから、私の他に受かった2人の名前も判明。いずれもVOの現場でよく会う顔なじみさん達だった。

 

ところがその録音は、前日にいきなりドタキャンされ延期となった。とはいえ、仕事そのものがキャンセルされたわけではなく、録音日が別の日になっただけだというし、 実はそれはそう珍しい事でもないので、その延期された録音日の連絡がくるのを、わりと呑気に待っていた。

 

その数日後、エージェントからまた別のVOのオーディションに送られた。

日本語のプロジェクトが、同時期にこんなにいくつもあるとは珍しい事…と思いながらも、いそいそとそのオーディションに行き、そのSidesを見てぶっ飛んだ…なんとそのSidesは、他ならぬボイスメール・オーディションで読んだそれと全く同じものだったのだ。

 

(その2へ続く)