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ココロヘン #10 最終話

「ココロヘン」


むかしむかし、とおいとおいところに、「ココロヘン」というクニがありました。
ココロヘンには、ソレちゃんがすんでいました。ソレちゃんのからだはまっしろで、まんまるです。
ソレちゃんは、まいにちまいにち、じぶんのココロをさがしていました。
ソレちゃんには、ココロがないのです・・・・・・。


・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。


もりで であった なかまたちといっしょに たびをつづけるソレちゃん。
ソレちゃんたちは、ついに ココロヘンのカミさまが いるところに たどりつきました。
ソレちゃんは、カミさまに おねがいしました。
「カミさま。わたしに、ココロをください。わたしに、ココロをもたせてください」
「ソレちゃん・・・。ざんねんながら、そのおねがいは きけません」
カミさまは、ソレちゃんの おねがいを ききませんでした。

ソレちゃんは、このあと どうなったのかな?
おうちのひとと いっしょに かんがえてみてね。



(そうそう。ここまでは、なんとなく覚えてるんだよね・・・)
島村彩花は、ゆっくりと絵本のページをめくった。
手書きの文字で物語の続きが書かれてある。彩花はオープンカフェのデッキチェアに座ったまま、脚を組み直した。



「なんで、ダメなの?教えてください、神さま」
神さまは、答えました。
「ソレちゃん・・・。この世界にいる者は、みんな、ココロを一つ持って生まれてくるのです」
「・・・・・・」
「ソレちゃん。あなたも、生まれたときには、ココロを持っていたのですよ」
「えっ!?でも、わたしにはココロがありません」
神さまは、話を続けます。
「誰であろうと、ココロは一つしか持てません」
「・・・・・・」
「そのココロをずっと持ち続けるのも、誰にも見つからないように隠したり、どこかに置いてきたりするのも、不要になって捨てるのも、失くしてしまうのも、持ち主の自由なのです」
「じゃあ、わたしのココロは・・・・・・」
手書きで記された"ココロヘン"の物語は、そこで終わっていた。



(ふうん。なるほどね・・・。こう来ましたか・・・)
彩花は、くたびれた絵本の表紙を閉じて、買ったばかりの高級ブランドのショルダーバッグにしまった。アイスコーヒーの氷は完全に溶けてしまった。彩花は薄琥珀色の液体に刺さっているストローに口をつけた。
(まずっ!・・・って、普通は思うんだろうな・・・。この薄っぺらい味が、わたし好みなんだけど)
飲み干されたグラスを載せたトレイを持って、彩花はカフェの返却口へ向かった。さっきから彩花を
チラチラ見ていた若いサラリーマン風の男の前を通るとき、軽い笑顔を向けてみた。男は、不自然に目をそらした。
席に戻った彩花は、ショルダーバッグを肩にかけて、デッキチェアに置かれた黒いボディバッグを手にした。バッグの表面は、ところどころに大きな傷が目立つ。ベルトがちぎれているので、彩花のしなやかな指は目一杯開いてわしづかみの状態だ。
カフェの出口に向かった。ドアの横に置かれたダストボックスに、ボディバッグを投げ入れた。
店を出て、広い歩道を歩いていると、街路樹の葉影が地面の上で薄く揺れている。彩花は、チョコレート色のパンプスでその影をリズミカルに踏みしめた。
(あっ!そっか・・・。じゃあ、わたしが壮介のココロを拾ったっていうことじゃん。壮介・・・。大事なココロなんだから、捨てたりしちゃダメだよ・・・)
葉影が途切れた。。

(わたしのココロも、誰かに拾ってもらえるかな・・・・・・?)

彩花は立ち止まって、少し離れた前方にある新しい葉影を見つめた。
(えいっ!)
助走なしに、彩花は前方に向かって思い切り飛んだ。着地した瞬間、ショルダーバッグから小さな絵本がこぼれ落ちた。
「あっ・・・・・・」
長い髪を耳にかけながら、彩花は絵本を拾おうとしゃがみこんだ。

(・・・・・・。えっと・・・。どれだっけ・・・?)

さっきまで彩花の周りに落ちていた無数の葉影が、全て小さな本になっている。幾千のカラフルな絵本が敷き詰められた地面を見て、彩花の身体の芯奥は、甘く揺さぶられて、熱くとろけだす。
(ん・・・・・・。これで、いいや・・・・・・)
手にした一冊は、数日前に幾度となく確かめあった男の体温と同じ感触だった。

ココロヘン  - 完 -

ココロヘン #10(最終話)


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