テニスな週末 #3 全3話
テニスな週末 全3話
#3
市民大会のダブルス準決勝。ゲームカウントは4-5。オレのサービスゲームだが、相手のマッチポイントを迎えている。しかも、チャンスは三つもある。
ああ・・・。もう、無理だな。また、負けるのか・・・。
やめよう・・・。
テニス・・・。
楽しくないし・・・・・・。
「今井さん、いつもの弾丸サーブをぶち込んでください。まだまだ、これからですよ。挽回、挽回。とりあえず、デュースにしましょう」
落ち込んでいるオレのもとへ、人懐っこい笑顔で高山さんがやってきた。
(この人とペアで良かったな・・・。そうだ。所詮は、アマチュアの市民大会じゃないか。楽しんでいこう!・・・・・・。でも、やっぱり勝ちたいよな)
ピュアドライブのガットを直しながら、気持ちを落ち着かせる。
集中。
ファーストサーブは、狙い通りセンターへ入った。前に出る。すでにフォアハンドを構えた相手が確認できた。
(また、読まれた!来る・・・)
速いリターンボールが、返ってくる。
目の前を高山さんが駆け抜けた。
バシッ。
フォアハンドボレーが、きれいに対角へ決まった。
「ナイスボレー!」
(相変わらず、思い切りがいいな・・・。ホント、頼りになるよ)
試合を観ていた数人のギャラリーから、歓声と拍手が沸き起こる。
「フィフティーン・フォーティー」
ファーストサーブが、ネットにかかった。コート左に寄り気味の高山さんの背中には、一本と五本の指が交互に出ている。
(ははは。ここで、ギャンブルかよ。最高だよ、高山さん)
スピンを効かせたセカンドサーブをセンターに入れた。高山さんが、素早く右に動く。相手が両手バックハンドを構える。パッシングショットが、高山さんの左側を抜けた。
(かかった!)
左斜め前方にダッシュしていたオレの前方。想定内のスピードボールは打ち頃だ。バックハンドボレーをストレートに打ち込む。
相手は、態勢を崩している。返ってきたボールを、フォアのハイボレーでオープンスペースになんなく決めた。
「サーティー・フォーティー」
あと一つでデュースに持ち込める。高山さんのサインは、右側、相手のバックハンド狙いだ。
ファーストサーブ。ほぼ狙い通りだ。オレは前に出た。
(また・・・)
相手はオレのサーブを読んで、すでにバックハンドを振り抜いている。高山さんのバックハンドボレーは届かない。ネットすれすれを超えてきたトップスピンは、オレのピュアドライブの先にかろうじて触れた。力なく浮いたボールは、渾身のスマッシュの餌食だった。
オレたちに勝利したペアは、決勝戦を危なげなく制して優勝した。
「今井さん、悔しいですね」
「ええ。ホントに悔しいですね」
目の前の表彰式に拍手を送りながら、オレたちはいたたまれない気持ちだった。
「今井さん。次は、絶対、わたしたちが優勝しましょう」
熱い気持ちを隠さずに打ち明けてくれる高山さん。オレは、そんな彼を尊敬していた。
そして、今まで以上にテニスを大好きになっていた。
「はい。もっと練習して、次こそは絶対に優勝しましょう」
週末のテニスコートは、オレの時間だ。
何の考えも持たずに、毎日走り回っていた学生時代の部活動よりも、現在のテニスのほうが内容は充実している。インターネットや、プロのレッスンDVDで研究したことを、週末限定の練習のなかで、効率良く実践していく。頭の中でイメージする能力が、もしかしたら年齢を重ねるごとに向上しているのかもしれない。自分で言うのもなんだが、オレのテニスは進化している。
テニスの技術だけでなく、ダブルスの戦略まで、オレと高山さんは貪欲に習得した。大会での優勝という明確な目標を打ち出したので、練習内容も詳細な計画をたてた本格的なものになっていた。全ては、試合に勝つためだ。
サークルの仲間たちのサポートも素晴らしかった。試合の日が近づいてくると、オレと高山さんペアのために、コートを二面レンタルしてくれた。集中して練習できる環境は、ウィークエンドプレイヤーにとっては、かなりの贅沢だ。他のサークルとの練習試合をセッティングしてくれることもあった。
佐山香織は、社内の重要なプロジェクトのチームメンバーに抜擢されて、今は遠くの街で生活している。仕事は順調なようだ。テニスはスクールで習いながら続けていると、最後のメールで知らせてくれた。
今のオレは、趣味に没頭している、という表現がピッタリだ。仕事に支障をきたす一歩手前まで、テニスにのめり込んでいる。
どういうわけか、家族も応援してくれている。次の大会には、家内だけでなく小学校高学年の娘まで観戦に来るらしい。
「実はね、お母さんと一緒に、お父さんの練習をこっそり見に行ったことがあるんだ。お父さんが、あんなにテニスがうまいなんて思わなかったよ。もう、ビックリ!それに、なんだか楽しそうにテニスをしているお父さんが、悔しいけれど、カッコよかったんだんよね」
その笑顔は、間違いなくオレの最も大切な宝物だ。
親子でテニスか・・・。
ふと思いついた願望は、欲張りすぎだろうか。弟と一緒に遊んでいる娘の携帯ゲーム機には、テニスラケットとボールを形どったストラップが揺れていた。
テニスな週末 全3話 -完ー
#1
#2
#3
市民大会のダブルス準決勝。ゲームカウントは4-5。オレのサービスゲームだが、相手のマッチポイントを迎えている。しかも、チャンスは三つもある。
ああ・・・。もう、無理だな。また、負けるのか・・・。
やめよう・・・。
テニス・・・。
楽しくないし・・・・・・。
「今井さん、いつもの弾丸サーブをぶち込んでください。まだまだ、これからですよ。挽回、挽回。とりあえず、デュースにしましょう」
落ち込んでいるオレのもとへ、人懐っこい笑顔で高山さんがやってきた。
(この人とペアで良かったな・・・。そうだ。所詮は、アマチュアの市民大会じゃないか。楽しんでいこう!・・・・・・。でも、やっぱり勝ちたいよな)
ピュアドライブのガットを直しながら、気持ちを落ち着かせる。
集中。
ファーストサーブは、狙い通りセンターへ入った。前に出る。すでにフォアハンドを構えた相手が確認できた。
(また、読まれた!来る・・・)
速いリターンボールが、返ってくる。
目の前を高山さんが駆け抜けた。
バシッ。
フォアハンドボレーが、きれいに対角へ決まった。
「ナイスボレー!」
(相変わらず、思い切りがいいな・・・。ホント、頼りになるよ)
試合を観ていた数人のギャラリーから、歓声と拍手が沸き起こる。
「フィフティーン・フォーティー」
ファーストサーブが、ネットにかかった。コート左に寄り気味の高山さんの背中には、一本と五本の指が交互に出ている。
(ははは。ここで、ギャンブルかよ。最高だよ、高山さん)
スピンを効かせたセカンドサーブをセンターに入れた。高山さんが、素早く右に動く。相手が両手バックハンドを構える。パッシングショットが、高山さんの左側を抜けた。
(かかった!)
左斜め前方にダッシュしていたオレの前方。想定内のスピードボールは打ち頃だ。バックハンドボレーをストレートに打ち込む。
相手は、態勢を崩している。返ってきたボールを、フォアのハイボレーでオープンスペースになんなく決めた。
「サーティー・フォーティー」
あと一つでデュースに持ち込める。高山さんのサインは、右側、相手のバックハンド狙いだ。
ファーストサーブ。ほぼ狙い通りだ。オレは前に出た。
(また・・・)
相手はオレのサーブを読んで、すでにバックハンドを振り抜いている。高山さんのバックハンドボレーは届かない。ネットすれすれを超えてきたトップスピンは、オレのピュアドライブの先にかろうじて触れた。力なく浮いたボールは、渾身のスマッシュの餌食だった。
オレたちに勝利したペアは、決勝戦を危なげなく制して優勝した。
「今井さん、悔しいですね」
「ええ。ホントに悔しいですね」
目の前の表彰式に拍手を送りながら、オレたちはいたたまれない気持ちだった。
「今井さん。次は、絶対、わたしたちが優勝しましょう」
熱い気持ちを隠さずに打ち明けてくれる高山さん。オレは、そんな彼を尊敬していた。
そして、今まで以上にテニスを大好きになっていた。
「はい。もっと練習して、次こそは絶対に優勝しましょう」
週末のテニスコートは、オレの時間だ。
何の考えも持たずに、毎日走り回っていた学生時代の部活動よりも、現在のテニスのほうが内容は充実している。インターネットや、プロのレッスンDVDで研究したことを、週末限定の練習のなかで、効率良く実践していく。頭の中でイメージする能力が、もしかしたら年齢を重ねるごとに向上しているのかもしれない。自分で言うのもなんだが、オレのテニスは進化している。
テニスの技術だけでなく、ダブルスの戦略まで、オレと高山さんは貪欲に習得した。大会での優勝という明確な目標を打ち出したので、練習内容も詳細な計画をたてた本格的なものになっていた。全ては、試合に勝つためだ。
サークルの仲間たちのサポートも素晴らしかった。試合の日が近づいてくると、オレと高山さんペアのために、コートを二面レンタルしてくれた。集中して練習できる環境は、ウィークエンドプレイヤーにとっては、かなりの贅沢だ。他のサークルとの練習試合をセッティングしてくれることもあった。
佐山香織は、社内の重要なプロジェクトのチームメンバーに抜擢されて、今は遠くの街で生活している。仕事は順調なようだ。テニスはスクールで習いながら続けていると、最後のメールで知らせてくれた。
今のオレは、趣味に没頭している、という表現がピッタリだ。仕事に支障をきたす一歩手前まで、テニスにのめり込んでいる。
どういうわけか、家族も応援してくれている。次の大会には、家内だけでなく小学校高学年の娘まで観戦に来るらしい。
「実はね、お母さんと一緒に、お父さんの練習をこっそり見に行ったことがあるんだ。お父さんが、あんなにテニスがうまいなんて思わなかったよ。もう、ビックリ!それに、なんだか楽しそうにテニスをしているお父さんが、悔しいけれど、カッコよかったんだんよね」
その笑顔は、間違いなくオレの最も大切な宝物だ。
親子でテニスか・・・。
ふと思いついた願望は、欲張りすぎだろうか。弟と一緒に遊んでいる娘の携帯ゲーム機には、テニスラケットとボールを形どったストラップが揺れていた。
テニスな週末 全3話 -完ー
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