今日も続きます・作業しながらかけ流し映画鑑賞。

今回は名画座落ちしていたのを見ようとしていて取り逃がした「ボーイソプラノ・ただひとつの歌声」

 

http://boysoprano.asmik-ace.co.jp/ (いきなり予告映像が始まりますので音声が出ます)

 

中西部の荒れた地区、荒れた小学校(中学校??)に通う白人の男の子。

シングルマザーのお母さんはアル中、身持ちも良くないが息子はお母さんを愛している。

なんか設定として「ペイ・フォワード」の男の子みたい。

だが・「ペイ・・・」と違ってお母さんは最初の5分くらいで事故死で退場、小学校の校長先生が生物学上の父親で養育費も援助していたという、かなり社会的地位もありそうな(でも大金持ちというクラスではない)お父さんを探し出して引き合わせる。

幸せな家庭もあって主人公君を引き取りたくないお父さん、主人公君の美声と音楽的才能を高く評価している小学校の校長先生の画策に乗って、主人公君を国立少年合唱団付属の寄宿学校に金にものを言わせてねじり込む。

主人公君、「トウシューズに画びょう」クラスの苛めにあいつつも、厳しくも温かい先生方に出会い、自分の場所を合唱団に見出して美声と努力で合唱団で頭角を現していく、という・平らに書けば1970年代の日本の少女漫画みたいなお話。

この脚本家とか監督さんとか、萩尾望都のギムナジウムもの読んでるんじゃないか??と思うくらい。

(監督さん、日本通だそうだから怪しいなぁ。)

 

ほんのり漂う萩尾望都臭。

だが、そこがいい。(笑)

 

主人公君はまさに正統派美少年、他の合唱団の皆さんも粒ぞろい、目に嬉しい。

映画の中で流れる歌声は練習の段階からまさに天使の歌声、耳に嬉しい。

強面の先生が名優って感じの重みのある人だなぁ、と思っていたらダスティン・ホフマンだった。

音楽学校の女性校長もセリフが多くてダスティン先生と互角に渡り合ってるなぁ、と思ったら「ミザリー」でアカデミー主演女優賞のキャシー・ベイツだった。

あれ、これ豪華な映画じゃないか!

 

主人公君、あんまり歌を歌うことに関しては挫折が少ない、最初だけ正規の音楽の教育を受けていないので苦労しますが、あとは比較的スイスイ成功します。

そこに捻りがないため映画の評価は脚本の出来が悪いと賛否半々らしいですが、よく見ていればこの主人公君の立ち位置というのはかなり厳しいものなのです。

お母さんのお葬式の日に初めて会った生物学上の父親に、お葬式の日当日か翌日くらいに合唱団の寄宿学校にぶち込まれて、お父さんはお金の面倒だけ見てあとはノータッチ。

結構酷いシチュエーションです。

クリスマス休暇に帰る家もなく、帰る場所がないという事も誰にも言えず、誰もいない寄宿舎でたった一人で年を越します。

荒れた地区に育っているから鍵をちょろまかすのも自動販売機を壊すのもサクッとできるので、独りで誰もいない寄宿舎でキッチンからくすねたコーンフレークかなんか黙って食べているところなんか、可哀想そうには描いてないけど孤独が心に染みます。

(エーリッヒ・ケストナーの「飛ぶ教室」のマルチンなんかたった一回貧乏でクリスマス休暇に家に帰れないだけであの大騒ぎなのに!)

 

合唱団でソロの2番手に地位を上げた時、ダスティン先生が送りつけたチケットでお父さんは半ば嫌々コンサートを聴きに来ますが、これで主人公君のことを見直すわけでもなく、

逆にこれ以上目立って家族に波風が立つ危険を避けようと合唱団に居場所を見つけた主人公君をいきなりスイスの学校に転校させようとする始末。

とにかくお父さん、冷たい。(泣)

 

合唱団のソロを歌う花形の敵役君がきっちり本当に日本の少女漫画レベルの正統派嫌な奴なのは観ていて気持ちが良いくらい。

しかしそれに主人公君が精神的に全然負けていない。

そこがまたまた捻りが無く見えると不満が出る人もいるのかも。

だがしかし・主人公君が育った地区の粗暴さを考えてみれば合唱団の坊ちゃんの嫌がらせなんか大概のことは痛くも痒くもないわけで、変に落ち込んだり傷ついたりする描写なぞない方が逆に自然なわけです。

大袈裟に主人公君を感情的な子に描かなかったのは好感持てます。

(粗暴な子には描いていますが、粗暴さも静かに粗暴なのよ、この子)

 

ネタバレを書きますが、合唱団で第一ソロのポジションを掴み取った主人公君は、そんなに長く活躍しないうちに声変りを迎えて「ほんの束の間神様から借りる声」、ボーイソプラノを失います。

「人生の一時期だけの声」とそれを失ってからの気構えを何度となく先生方が少年達に諭しているので、これも淡々と主人公君は受け入れて次の人生に進んでいくのですが、やっぱり切ない幕切れです。

ボーイソプラノを失うのは合唱団に居る男の子全員がそうなるので、そうなった時に何が自分の手に残るのか、ということをここの先生達が真剣に少年たちに伝えている姿勢がとても良いです。

たった一時期の「声」のために非常に厳しい鍛錬と教育を乗り越えて、輝かしくも厳しい舞台で大観衆の前で歌うことも経験して、主人公君は生まれ育った地区の貧困層狂犬気質の荒さと投げやりを克服して合唱団を去っていきます。

ちゃんとご褒美としてあの冷たかったお父さんの覚悟が決まって新しくお父さんの家族に迎えられるところが救いがあって後味が良いのもGOOD。

 

萩尾望都テイスト、ってあんまり考えないで書いたけれど、こうしてあらすじを追いながら描いてみると寄宿舎少年ものという舞台だけでそう感じたわけでもないような。

あの辺の作品、少年達が自分と時と追いかけっこしながら成長していく輝き感と切なさみたいなのが、淡々とした描かれ方を含めてとてもよく似ているように思いました。

 

やっぱりねぇ、脚本家さんと監督さんは萩尾望都読んでるって、絶対。(笑)

世間の評価よりいい映画だと思います。